2021年9月1日にデジタル改革関連法が施行され、これを契機に不動産取引における電子契約が本格化しました。これまで、不動産取引では紙の書類が不可欠で、完全な電子化が難しい状況が続いていました。法的な要件により、不動産取引においては特定の書面が必要とされており、これが電子化の障害となっていました。宅建士の押印や書面化の義務もこれに含まれていました。
しかし、デジタル改革関連法の施行により、不動産取引においても電子契約が可能となりました。法改正により、これまで必須であった宅建士の押印や書面化の義務も電子形式に適応できるようになり、煩雑な紙の書類から解放されることとなりました。不動産業界においても、効率的で迅速な取引プロセスが期待され、デジタル化が進展しています。
この記事では、「不動産取引において電子契約がいつから利用可能になるのか知りたい方へ」「電子契約導入のメリットを知りたい方へ」という関心を持つ読者に向けて、電子契約が認められている契約書や不動産取引での導入方法についてわかりやすく解説いたします。
これにより、いつでも電子契約を始めるための知識を身につけることができ、電子契約が導入された経緯やメリットについても理解を深め、スムーズな不動産取引に役立てましょう。
そもそも電子契約とは

「契約」は本来、口頭で成立することが可能ですが、口頭契約は紛争や記憶のずれからトラブルを引き起こす可能性があります。また、時間が経つと契約時の内容を忘れることもあります。このような問題を解消するためには、契約内容を明確に記載した契約書を作成することが一般的です。契約書には当事者の氏名を印刷したり(記名押印)、署名を行ったりします。これにより、契約当事者が契約書の内容に同意したことが証明されます。
契約書に記名押印や署名がない場合、裁判などでの証拠としての有効性が低下し、信頼性が問われることがあります。また、捏造や改ざんといった悪意ある行為にも対処できません。そのため、契約書への記名押印や署名は非常に重要です。
一方で、電子契約では契約書を電子ファイルで作成します。しかし、紙と異なり電子ファイルには印鑑を押すことができません。印鑑は誰が契約をしたかを特定し、契約書が改ざんや捏造されたものでないことを示すための証拠となります。
この問題に対処するため、電子契約では電子署名の技術が活用されます。電子署名を施した電子契約は、作成者の証明と改ざんの有無を確認することができ、法的な効力も有しています。
電子契約に関わる法律
現在の電子契約に関連する法律は主に以下の2点です。
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)
電子署名法は2001年4月1日に施行され、本人による電子署名がある電子文書の有効性を規定しています(第3条)。
電子署名法の成立により、電子契約の広範な認容が進んでいます。ただし、契約書の保存方法には注意が必要で、一部の契約書では紙での保存が法的に義務づけられている場合があります。
電子帳簿保存法
これらの法律の下で、電子契約やデジタルな文書の取り扱いにおいて留意すべきポイントが存在します。
電子帳簿保存法では主に国税関係書類について、一定の条件を満たす場合に、電子データでの保存を認めています。
不動産取引電子契約の現状と将来
現在、電子契約は多岐にわたる業界で広く導入されています。しかし、不動産業界ではこれまで、法的な要件により書面の交付や押印が求められ、完全な電子化が難しい状況でした。
ところが、2021年には「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」が成立し、これにより様々な法律に変更が加えられました。特に、宅地建物取引業法における変更が不動産業界に大きな影響を与えました。主な変更点は以下の2点です。
- これまで必須だった宅地建物取引士のハンコが不要となり、電子署名で対応可能になった。
- 重要事項説明書などに規定されていた「書面交付」の義務がオンラインでも果たせるようになった。
これらの変更により、不動産業界では取引に関わる書類が完全に電子化されるようになりました。
電子契約が認められた不動産取引
不動産取引において、これまで一部の書類は電子化が法的に認められていませんでした。その中には、「重要事項説明書」も含まれています。従って、これまでは重要事項説明書の電子化が認められず、書面での交付や押印が必要とされていました。
このように不動産関連の契約を完全に電子契約へ移行することは法律上難しかったのですが、2022年5月から、デジタル改革関連法の制定により、不動産関連の取引において電子契約が可能となりました。
デジタル改革関連法は宅地建物取引業法と借地借家法の改正を含んでおり、これにより不動産取引における手続きにおいて押印が不要となり、また、紙書類ではなく電子文書での契約書交付が認められました。
改正された借地借家法と宅建業法により、不動産取引に関連する多くの書類で電子契約が認められ、これによって電子契約が可能な書類と、契約書を電子文書にする方法について解説いたします。
借地借家法の改正により電子契約が認められる書類
借地借家法の改正により、主に以下の3つの書類で電子契約が認められました。
- 一般定期借地契約
- 定期建物賃貸借の事前説明書面と契約
- 賃貸借している建物の取壊しと同時に賃貸借が終了する旨の特約
この改正により、電子契約システムやメールを利用したオンライン契約が可能になり、これによって遠隔地からでも契約が容易になり、利便性の向上や負担の軽減が期待されています。
宅建業法の改正により電子契約が認められる書類
宅建業法の改正により、主に以下の4つの書類で電子契約が認められました。
- 重要事項説明書(35条書面)
- 宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(37条書面)
- 媒介・代理契約締結時の交付書面
- レインズ登録時の交付書面
この改正により、不動産の売買契約や賃貸契約において電子契約が可能となりました。これにより、例えばマンションやアパートを借りる場合、部屋探しから契約まで全てをオンライン上で手続きできます。電子契約の利用により、来店して内見や書類手続きをする必要がなく、契約完了までの時間を短縮できるようになりました。
電子契約の導入に伴う不動産取引のメリット
不動産取引に電子契約を導入する際のメリットは、主に以下の3つが挙げられます。
契約を迅速に実現
通常、紙の契約書では書類を相手に送付する必要があります。特に不動産に関する契約では、多くの押印者が必要とされます。例えば、売主や買主、貸主や借主だけでなく、媒介業者や仲介業者、取引主任者の押印も必要です。
賃貸借契約を考えてみましょう。通常、貸主はできるだけ早い入居日を提案し、それに借主が応じても、契約書が手元にないまま契約開始日が近づくことがあります。これには契約書を各当事者に送付したり、持ち回りしたりする時間がかかります。
契約書が手元にないまま契約が始まると、当事者は不安を感じることがあります。さらに、契約書に誤りがあった場合、全ての当事者の訂正印が必要で、手続きに時間がかかります。
電子契約を導入することで、契約書を即座に相手に送付でき、時間を大幅に短縮できます。修正が必要な場合も迅速に対応可能です。これにより、契約の締結が迅速に行え、当事者の満足度や安心感も向上するでしょう。
印紙税免除により大幅な経費削減が可能
不動産の取引において、契約書や賃借権、建築請負に関する書類には通常、印紙税が課されます。契約の内容や金額により、印紙税の額も変動しますが、不動産取引の契約金額が高額であるため、それに伴う印紙税も相応に高額になりがちです。
しかし、電子契約を導入すると、契約書に収入印紙を貼る必要がなくなります。これにより、多くの不動産契約書を取り交わす場合でも、印紙税のコストを大幅に削減することが期待できます。
文書の管理課題の解消と情報の検索効率向上
契約書には押印が必要で、これらの書類を保存するには物理的なスペースが必要です。不動産業者などは、契約書の増加に対応して保管場所を確保しています。
一方で、電子契約では物理的なスペースが不要です。また、電子ファイルの検索機能を利用すれば、目的の書類を素早く見つけることができます。これにより、保管スペースの節約と情報の迅速な検索が可能となります。
消費者の要望の拡大
最近のアンケートによれば、不動産に関心のある500人の消費者のうち、80%が「オンライン契約を試してみたい」と回答しました。新型コロナウイルスの影響やテレワークの増加などが背景にあり、物件の内見や重要事項の説明をオンラインで行い、契約もオンラインで完結させるというニーズが広がっていることが分かります。
電子契約の導入に伴う不動産取引のデメリット
電子契約の導入には業務効率の向上が期待されますが、同時にデメリットも潜在的に生じる可能性があります。自社で電子契約を採用する際には、デメリットを検討し、慎重にシステムを選定することが不可欠です。
不動産取引の電子契約導入に伴うデメリットは、主に以下の3つです。
双方の同意が必要
電子契約において、各種書類を取り交わす際には、相互の同意が必要です。契約相手が文書による契約を望んでいる場合は、電子契約ではなく、紙に印刷した契約書を使用するべきです。電子契約の導入時には、文書を希望する相手にも円滑に対応できるよう、「書面による契約も残すことが大切です」。
初めて電子契約を利用する相手にも配慮が必要です。使いやすく、重要な情報が確認しやすい電子契約システムを選択しましょう。
機密情報の漏えいやデータ改ざんの危険性が存在する
契約書類の重要性を考慮すると、慎重な取り扱いが必要です。例えば、紙の契約書類の場合は盗難対策として施錠可能なチェストに保管するなどの注意が必要です。一方、デジタルツールを用いた電子契約も、データ漏えいや改ざんのリスクが潜んでいます。
これらのリスクが生じる原因は多岐にわたり、データ入りUSBの紛失やSNS画像からのパスワード漏洩、サイバー攻撃などが挙げられます。従業員へのセキュリティ教育の徹底や、システム面での対策が不可欠です。ウイルスやサイバー攻撃に備えたセキュリティサービスの採用や、データの定期的なバックアップなどが効果的です。これらの対策を講じることで、データ漏えいや改ざんのリスクを低減できます。
業務の再構築が必要なケースが生じることがある
電子契約を導入する場合、契約業務のみを電子化することも可能です。一度に全ての業務を電子化する必要はありません。各企業の不動産業務フローが異なるため、導入プロセスで業務フローの再構築が必要な場合もあります。
既存のフローを見直し、新たなマニュアルを作成する必要が生じるかもしれません。この際は、準備と適応に十分な時間とリソースを確保し、適切なスケジュールを計画することが重要です。
電子契約の締結完了までの流れ
電子契約に移行しても、不動産の売買や賃貸借に関する契約の進行においては大きな変更はありません。引き続き、重要事項の説明、必要書類の提供、契約の締結といった3つの主要ステップが存在します。
ただし、紙の書類を使用する場合とは異なる手続きが発生します。以下では、各ステップごとに主な作業内容を紹介いたします。
IT重説
IT重説は、買主や借主に対してオンラインで重要事項の説明を行うプロセスです。通常、宅地建物取引士がこの説明を担当します。主にWeb会議ツールを使用して実施されますが、買主や借主の希望により、時には対面(オフライン)での説明も行われることがあります。
IT重説を実施する際に留意すべき点は以下の通りです。
・ IT重説の承諾に関する記録を残す
・ 承諾が得られた後も、必要に応じて書面での変更が可能である旨を説明する
・ 送付された重要事項説明書などに改変がないか確認する
・ 宅地建物取引士証をしっかりとカメラに映す
IT重説は相互の合意に基づいて行われるべきであり、そのために承諾を示す記録をしっかりと残すことが重要です。重要事項の説明時にはお互いが内容を確認し合い、買主や借主が内容を変更していないことも確認するべきです。
正確な資格者がIT重説を行っていることを確認するために、宅地建物取引士証は注意深くカメラに映すことが必要です。
重要事項説明書の電子交付
IT重説の後、真正性を確認するために重要事項説明書を電子的に提供します。電子契約においても、買主や借主の署名と押印が必要です。オンラインでの契約は、対面での契約とは異なり、本人以外がなりすましても気づきにくいリスクがありますので、なりすましには十分に注意が必要です。
重要事項説明書を電子的に提供する場合、文書が改変されていないことを確認するために、契約当事者同士で文案を照らし合わせることが大切です。オンライン上でのやり取りでも、契約関係者同士が確認作業を行うことは不可欠です。
電子契約締結
トラブルを未然に防ぐためには、電子契約において法的な担保が必要です。電子契約では、契約当事者が「電子署名」を利用することで、法的に真正性を証明できるようになります。
電子署名はオンライン上で大切な書類や重要事項説明書などをやり取りする際に、伝統的な記名押印と同様の役割を果たします。トラブルを回避するためには、単なる記名押印ではなく、電子署名を用いた契約締結が効果的です。
不動産取引で電子契約を導入するときの注意点
電子契約の導入には多くのメリットがありますが、同時に注意が必要なポイントも存在します。以下に、留意すべきポイントとその対処法を解説します。
電子契約サービス導入の重要性
電子契約の導入に際し、ゼロからシステムを構築するのは現実的ではありません。そこで、電子契約サービスや新たな設備・システムを導入することが必要です。
幸いにも、「Great Sign(グレートサイン)」という電子契約システムでは、メールアドレスの登録のみでサービスの利用ができる、お試しフリープランが提供されており、コストを抑えつつ相手方の費用負担を気にせずに電子契約を導入することができます。
厳重な安全対策
電子契約において、書類の受け渡しは完全に電子ファイルで行います。このため、かつてのように紙の書類を物理的な場所で保管・管理していたのと同じくらい、電子ファイルのセキュリティ対策が不可欠です。
電子契約システム「Great Sign(グレートサイン)」は、契約書類を高度なセキュリティが確保されたクラウド上で効果的に管理します。
取引先との相互理解が不可欠
電子契約の導入において、自社だけの対応が十分ではなく、契約書の相手方にも理解を求める必要があります。相手企業に対して、事前に電子契約の導入計画を説明し、共感と理解を得ることが肝要です。
まとめ
不動産業界における電子契約の全面解禁は、不動産業の取引プロセスの効率性向上やコスト削減に大きく寄与します。法改正により、重要事項説明書の取り扱いが簡素化され、オンラインでの交付が可能になりました。
電子契約の導入には慎重な計画とセキュリティ対策が必要ですが、これによって不動産業界はよりスマートかつ迅速な取引環境に向けて進化しています。