近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)と呼ばれる概念が脚光を浴びています。2025年の崖やITの急速な発展など、外部環境の変化が企業にDXの必要性を迫っています。企業はDX戦略を検討し、着実に実行することで、顧客ニーズへの柔軟な対応、業務効率化、生産性向上などのメリットを享受できます。
ビジネスにおけるDXは、主に「IT技術の導入によりビジネスモデルをより良い方向へ変革する」というコンセプトで使用されています。経済産業省もDX推進を奨励していますが、多くの企業がまだDXへの取り組みに着手できていないという現状があります。それでは、なぜDX戦略が必要なのでしょうか。
この記事では、DX戦略の必要性、DXを成功させるためのポイント、そしてDXを進めるための具体的なプロセスについて解説していきます。
DX戦略とは

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業が急速に進化するデジタル技術を戦略的に採用し、事業モデルやプロセスを変革し、競争力を高めるための包括的なアプローチです。2025年問題や急速なITの進展など外部環境の変化が企業に求められる変革を促しており、DXはその中で特に注目を集めています。
デジタル技術の活用により、企業は自らの課題に対処し、革新的なビジネスモデルを構築することが期待されます。顧客の期待に応え、業務プロセスを効率化し、生産性を向上させるなどのメリットがあります。DX戦略は、単なる収益獲得だけでなく、デジタル技術を駆使して顧客に付加価値を提供する視点が重要です。
企業はDXの必要性に直面し、DX戦略を具体的かつ実行可能な形で策定・展開することが求められています。DX戦略の成功には、組織全体の協力と共感、柔軟性と迅速な対応、そして変革のための戦略的ビジョンが不可欠です。経済産業省もDXを推奨しており、企業はこれに積極的に取り組むことで、将来のビジネス環境に適応していくことが期待されています。
DX戦略の必要性
現代のビジネス環境は急速に変化しており、企業は自らの課題を見極め、それに対処するために戦略的にデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることが求められています。
DXが急務となっている理由の一つに「2025年の崖」が挙げられます。これは、経済産業省が指摘するところによれば、既存の複雑で老朽化したシステムが2025年以降に技術的な負債となり、維持管理費がIT予算の大部分を占め、業務に重大な影響を与えかねないリスクがあるためです。これによって経済損失が発生し、業務効率や競争力が低下する懸念が存在します。
もう一つの理由は、DXを推進する企業が市場で競争力を高められる可能性がある点です。現在の競争が激しくなる中、DXを通じて新たなビジネスモデルを構築することで、市場での優位性を確保できます。ユーザーの消費行動やニーズに柔軟に対応し、ITを活用して顧客体験を向上させることが重要です。
DXの実現には、全社的な協力が欠かせません。そのためには、DX戦略の策定や長期的なロードマップの作成、目標の設定が不可欠です。では、DX戦略への取り組みはなぜ必要なのでしょうか。
「2025年の厳しい課題」への直面が迫っている
「2025年の崖」という言葉は、経済産業省のDXレポートで使われています。
DXレポートによれば、既存のシステムが複雑で老朽化し、ブラックボックス化している場合、2025年までに予測されるIT人材の引退やサポート終了に伴うリスクの高まりなどにより、2025年以降、最大で年間12兆円(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性があります。
もしも「2025年の崖」に直面する場合、企業は市場での競争に勝ち抜くことが難しくなり、業務効率や競争力が著しく低下するおそれがあります。
一方でDXレポートは、2025年までに積極的にDXを推進し、新しいビジネスモデルを展開することで、2030年には実質GDPが130兆円を超える上積みが可能とされています。
変動するニーズに適応するための重要な一手
日々変動する消費者の要望に適応するためには、事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠です。
近年、私たちの生活は急速にIT技術に包まれています。これに伴い、顧客の行動やコミュニケーションは主にオンラインで展開されるようになりました。
さらに、新型コロナウイルス感染症や災害によって、リモートワークが必要になることが増えました。最新のITシステムを事業に組み込んでおくことで、業務を中断せずに事業を運営し続ける利点もあります。
経済産業省の「DX推進ガイドライン」
DXレポートの提言を受け、経済産業省は『DX推進ガイドライン(デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン)』を公表しました。DX推進ガイドラインは「DX推進のための経営のあり方、仕組み」「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築」の2つの内容によって構成されています。
以下では、「DX推進ガイドライン」や「デジタルガバナンス・コード」、「DXレポート」などが、DX戦略の立案に役立つ情報としてご紹介いたします。
DX推進ガイドラインの概要
経済産業省の「DX推進ガイドライン」は、実現可能な取り組み方が未知のままである企業向けに提供されている指針です。
2022年に開催された「コロナ禍を踏まえたデジタルガバナンス検討会」の議論に基づき、DX推進ガイドラインとデジタルガバナンス・コードは統合され、「デジタルガバナンス・コード2.0」として発表されました。
「デジタルガバナンス・コード2.0」は、DXに遅れがちな企業や足踏みしている企業向けに提供され、企業経営者とステークホルダーとのコミュニケーションを促進し、DXを進めるための指針となります。また、企業がDXを推進し、未来社会のコンセプトである「Society 5.0」への移行を見据え、持続的な成長を達成するためのガイドラインでもあります。
このガイドラインを参照することで、ITシステムを活用した新しいビジネス価値の創造の方向性や、2025年の崖を回避するために必要な取り組みやアプローチが理解できます。デジタルガバナンス・コードの採用により、企業は自発的かつ積極的にDXに取り組み、それによって資金、人材、ビジネス機会が結集する環境を整備することが奨励されます。
【参考】経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0(旧DX推進ガイドライン)」
DX推進のための経営のあり方・仕組み
DX推進のためには、ビジネスの在り方を根本的に変える必要があります。この変革の指針として、旧DX推進ガイドラインにおいて提示された「DX推進するための経営のあり方、仕組み」には5つの要素が示されています。
最初の要素は「経営・ビジョンの提示」です。これは、データとデジタル技術を駆使して破壊的なイノベーションを追求し、新たな価値を創造するためのビジョンと戦略を提示することを指します。
2つ目の要素は「経営トップのコミットメント」であり、経営陣がコミットし、積極的なリーダーシップを発揮することが求められます。組織の変革に抵抗が生じた場合、経営トップが果断な意思決定を行うことが重要です。
3つ目の要素は「DX推進のための体制整備」であり、事業部門がデータやデジタル技術を活用し、新たな挑戦を継続できるように経営層が環境を整えることを指します。この環境整備にはマインドセットの醸成やサポート体制の構築、必要な人材の確保が含まれます。
4つ目の要素は「投資等の意思決定のあり方」で、DX推進に関連する投資の意思決定における考え方が示されます。コスト以外のビジネス上のインパクトを検討し、リターンと確度にこだわりすぎず、DXを実現しないことによるリスクも考慮することが重要です。
最後の5つ目の要素は「スピーディな変化への対応力」であり、経営方針の変更やグローバル展開に対して迅速に対応できるかどうかが問われます。
DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築
DXの実現には、堅牢なITシステムの構築と効果的な運用が欠かせません。以前のDX推進ガイドラインによれば、この基盤の構築は「体制・仕組み」と「実行プロセス」の二つの要素に分かれています。
「体制・仕組み」のプロセスでは、まず①全社的なITシステム構築のための組織作りが必要です。これには、部門ごとの孤立を避け、全社で協力してITシステムを構築する仕組みが含まれます。また、②ガバナンスの確立も重要であり、全社的な最適なガバナンスを確保することが求められます。さらに、③各事業部門がDXの要件定義を主導し、その完了まで責任を持つことも要求されます。
「実行プロセス」では、現行のIT資産を分析・評価し、適切に仕分けることが必要です。また、新しいITシステムへの移行計画を策定し、変更後も迅速に対応できる状態を維持することが求められます。IT資産の仕分けや計画策定では、ビジネス環境の変化に適応できるシステム環境を構築し、全社的なデータ活用が容易な状態を確保することが重要です。また、ITシステムの評価はビジネスの成果を基に行い、持続的な改善を促進する仕組みを確立することが鍵となります。
DXレポート
経済産業省が提供している「DXレポート」は、企業が2025年までにDXを進める上での重要な情報がまとめられた資料です。
このレポートでは、レガシーシステムを継続利用する際のリスクや、DXを実現するためのシナリオに焦点を当て、既存システムの更新が不可欠な理由とその対処法について詳細に解説されています。また、ユーザー企業とベンダー企業の関係についても言及があり、ユーザー企業がベンダー企業に完全な要件定義を委ねる姿勢の見直しが求められています。
2020年には、コロナ禍を踏まえたDXの進展シナリオをまとめた「DXレポート2(中間とりまとめ)」が公開され、その後2021年には補足版となる「DXレポート2.1」がリリースされました。これらの報告書を総合的に参照することで、最新の動向に即した形でDXを推進する方針を検討することが可能です。
【参考】経済産業省「産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)」
DX戦略を成功させるポイント
ここではDX戦略を成功させるためのポイントをお伝えします。
データを中央集権的に管理し共有する
DX戦略を実現するためには、デジタイゼーションが基盤となります。デジタイゼーションは、アナログなプロセスをデジタルな形式に変換することを指し、デジタル化やIT化とも呼ばれます。社内のデータを一元化し、情報の共有を可能にする環境を整備することで、次なる段階で顧客に新しい価値を提供することができます。
また、デジタイゼーションによる業務効率化が成功することで、社内メンバーがDXのメリットを実感しやすくなり、DX推進への意欲が高まります。
社内に散在している技術、情報、およびノウハウを一元化する
企業内には「実は共有することで新しい気づきが生まれるような情報」が数多く存在します。これまで、伝える必要性を感じず、情報共有が手間になるとの理由から、必要なのは自分だけだろうという先入観がありました。個々や部門が蓄積してきた技術やノウハウ、有益な情報があっても、それぞれが単なる点として孤立している状態では、イノベーションが難しい環境と言えます。
DXを進めるためには、共通の危機感や目的意識を醸成することが不可欠であり、そのためにはまず情報を共有することが必要です。また、企業にとって有益な情報は、異なる視点から多角的に検討されることで新しいアイデアが生まれやすくなります。このためには、社内に分散して存在する情報を集約することが鍵となります。
ビジネスモデルを再編し、新たな付加価値を創造する
DXを進める際には、局所的な成功体験を積み重ねる一方で、全体的なビジョンと経営戦略に基づいた戦略的アプローチが重要です。単に内部のシステムを改革するだけでなく、ビジネスモデル全体の変革を視野に入れ、最終目標に向けて計画を進めることが必要です。
VUCA時代においては、急激な社会変化や変動する顧客ニーズに迅速かつ効果的に対応することが求められます。情報の過剰な中で、必要な情報を素早く把握する能力が競争力の源となります。このためには、自社や競合だけでなく、広範囲な情報源から有益な情報を取り込み、全社で共有する仕組みが必要です。
共有された情報に個々が主体的に関心を寄せ、自社の現状を正確に把握することが重要です。これによって、各個人が主体的に考え、多様な情報に触れ、他者との対話を通じてアイデアを交換し合うことが可能になります。そして、これらの活動が新しい顧客価値やビジネスモデルの創造に繋がるのです。
DX戦略を進めるための具体的な5つのプロセス
DX戦略を成功させるためには次に解説する5つのプロセスを実践することが大切です。
DX戦略のビジョンを明確にする
DX戦略を構築する際には、ますます初めに明確な目標、方向性、そしてビジョンを設定しましょう。具体的には、どのビジネス領域においてデジタルテクノロジーを駆使して新たな付加価値を生み出すのか、あるいは自社内の問題をどのようにしてDXを通じて解決するのかといったゴールを具体的に定めます。
DX戦略のビジョンが明確になったら、これを経営陣や管理層だけでなく、組織全体で共有することが極めて重要です。DXの浸透は各社員の個々の行動によって形成されるものであり、全社員が共通の目標に向けて協力しなければ成し遂げることは難しいです。ビジョンや目標を組織全体で共有することで、各社員がDXの重要性を理解し、統一された協力のもとで変革を推し進めることができます。
同様に、社内変革だけでなく、DXの推進においては外部関係者との連携がますます増加します。このため、ITツールの活用(たとえばコンテンツクラウド)により、安全かつ効果的な協働環境を整える計画も検討しておくべきです。
自社の状況を把握する
DXを進めるためには、企業が所有するリソースを正確に把握することが不可欠です。ヒト、モノ、カネ、技術、ノウハウなど、企業内に散在するリソースはDXに必要な変革要素を確実に実現する上での鍵となります。これらのリソースを中央で集約し、効果的に活用できるよう整備することが求められます。
リソースの把握に際しては、企業が保有するデジタル技術やITツールの現状を精確に理解することが肝要です。DX戦略のビジョンに向けて、必要なシステムや連携について考慮します。同時に、不必要なシステムの洗い出しや見直しを行うことで、戦略の実行を効率化し、コストを最適化できます。
さらに、企業独自の課題や強みを明確にすることも重要です。課題の可視化を通じて、目的達成のためにどのように課題を解決するかを検討できます。企業のビジョンと現状のギャップをハッキリさせ、具体的なDXの取り組みを進展させましょう。
課題に合わせてDXを推進する
DX戦略の指針が確立したら、企業の課題と技術力を考慮しながら、アプローチが容易な部分からDXを推進していきます。
DXを実行するには、優先順位を設定して段階的に進行させることが有効です。たとえば、小規模で導入が容易なプロジェクトや解決しやすい課題から始め、徐々に規模の大きな課題に取り組む戦略が効果的です。小規模な取り組みからスタートすることで、DXの導入に伴う混乱を最小限に抑えることができます。また、進行中に蓄積されるノウハウがあり、時間のかかる課題に対する効率的なアプローチが見えてくるでしょう。
もしやるべきことが多岐にわたり、整理が難しい場合は、ますますアナログなデータをデジタル化するデジタイゼーションから着手してみてください。
ビジネスモデルを迅速に変革する
DXを通じて、顧客の要望や社会の変遷に柔軟に適応する力を養うことが鍵となります。ビジネスモデルを素早く転換することで企業の競争優位性が向上し、持続可能な成長へと繋がります。社内で蓄積されたデータや技術、ノウハウなどを有効活用し、より高度なビジネス領域に主体的に挑戦しましょう。
新規事業を立ち上げるのが難しい場合は、現行のビジネスプロセス全体をデジタル化し、付加価値を向上させるデジタライゼーションからスタートする手もあります。
効果検証を行い改善する
DXの成功に向けたプロセスでは、効果の検証が欠かせません。一定の間隔で目標への進捗を定期的に評価し、実績を確認します。目標から逸れている場合は、即座に問題や課題を特定し、改善策を検討しましょう。
また、DXの推進において成功事例が生まれた場合は、それを他の部署や事業と共有することが重要です。参考になる成功事例が増えることで、組織全体のDXへの意欲が高まり、ゴールの達成が近づきます。
さらに、導入したデジタル技術やITツールの効果を確認するためには、社員のストレスレベルや部門全体のパフォーマンスを検証します。この段階はDXがビジネスモデルの変革にどれだけ寄与しているかを確認するための重要なステップです。現場で使いにくいと感じられるITツールが見つかった場合、それが仕事の効率や社員のモチベーションに悪影響を与えかねないため、使いやすいツールへの変更を考えましょう。
DXは一度きりの取り組みではありません。継続的な改善が求められます。DXの成果を分析し、市場の変化や消費者ニーズに合わせて戦略を改善し続けることが重要です。PDCAサイクルを回すことで、変動する環境に適応できる企業経営を実現できます。
DXの実現による見込まれる成果
DX戦略の遂行によって見込まれる成果には、業務プロセスの最適化や生産性の向上、顧客ニーズへの柔軟な対応などが挙げられます。以下では、これらのポイントについて詳細に説明します。
業務の効率向上と生産性の向上が可能
DX戦略の一環としてデジタル化を進めることで、書類データを効果的にPC上で統合管理できます。電子サインやクラウドサービス、RPAなどのITツールと組み合わせることで業務プロセスが合理化され、業務効率が向上します。これにより、管理コストの低減と業務の手間や負担の軽減が実現します。
デジタル化の進展に伴い、無駄な業務や費用対効果の低いシステムが明らかになり、コストや労力の節約と効率的な業務プロセスの構築が可能です。また、デジタル化によって生じる余剰の人員やリソースをコア事業や新規事業に振り向けることで、企業全体の生産性や利益が向上します。
さらに、業務のデジタル化により、テレワークや残業時間の削減が実現します。これは従業員の働き方改革やモチベーション向上に寄与します。
ビジネスプロセスの持続性を確保できる
事業継続性は、災害などの緊急事態においても中核となる業務を継続し、迅速な復旧を可能にする体制を整えることを指します。この概念は事業継続計画(BCP)としても知られています。
DX戦略において、事業継続性を確保することは極めて重要です。ITの活用により、災害時においてもコミュニケーションや重要業務の遠隔実行が容易になり、従業員の安全確認、情報共有、サプライチェーンのスムーズな管理が実現できます。また、業務効率化と生産性向上を通じて社内リソースを効果的に活用できるようになり、事業の継続的な運営が可能になります。
例えば、電子サインやクラウドサービスの導入により、取引や決済をオンライン上ですばやく処理できます。同様に、テレワーク環境やセキュリティシステムの整備を通じて、社員はオフィス外でも業務を円滑に続けることができます。DXによる業務効率化を実現している企業は、危機時においても人的リソースを効果的に活用し、重要業務や緊急対応に焦点を当てやすく、事業の継続性を確保しやすくなります。
付加価値の高いビジネスモデルを生み出せる
急激なビジネス環境の変化に適応するためには、顧客の要望に応じた商品やサービスを提供することが不可欠です。例えば、日本交通が開発したタクシー配車アプリ「GO」は、アプリを利用するユーザーに近くのタクシー車両をリアルタイムでマッチングさせる機能を導入し、これによって「早く乗れる」といった利便性向上と快適な顧客体験を提供しています。
デジタル技術の利用により、大企業だけでなく中小企業や小規模事業者も新しい商品やサービスの創造や顧客体験の向上に取り組むことが可能です。また、Eコマース(ネットショッピング)の浸透により、実店舗では接触できなかった顧客とも効果的なコミュニケーションを築く機会が増えています。
迅速に変化する顧客の要望に適応できる
現代において、ユーザーのニーズや消費行動が多岐にわたり、従来のマーケティング手法やユーザー分析だけでは充分な対応が難しい状況があります。こうした課題に対処する手段として、DXが有効です。最新テクノロジーやビッグデータを活用することで、顧客ニーズの変化を素早く把握し、効果的に対処できます。
営業やマーケティングの分野では、デジタル化によって販売データやカスタマーサービスなどの情報を収集し、これをAIで解析することで、人間が気づかないような顧客のニーズを発見し、それに基づいて新商品やサービスの開発につなげることが可能です。また、顧客の状況に即座に適応してアプローチすることで、顧客との関係を強化し、高付加価値のサービスを提供できます。
DXを成果へと導くための3つの戦略
DXレポート2(中間まとめ)では、経営者がDX戦略を策定するには、「経営とITは密接に関連している」という認識が欠かせないと指摘されています。この際、デジタル技術を活用して上位目標やビジョン、事業目的などの経営課題を解決する視点と、デジタルを駆使した新しいビジネスモデルの創出を追求する視点の両方が必要です。
経営者が具体的な行動に迷う場合、「DX成功パターン」を導入することで、DX戦略の実現に向けた手がかりを見つけることができます。この成功パターンには組織、事業、推進の三つの分野にわたる戦略が含まれており、これらがDX戦略の立案の前提となります。詳細な内容については以下で解説します。
組織戦略
組織戦略として、DXの推進においては、経営者、IT部門、および業務部門が協力し合いながら進めることが不可欠です。各部門が対話を通じて相互理解を深め、DXに関する共通の認識や合意を築きながら取り組むことが、成功への鍵となります。共通の認識がないまま進めると、経営者と各部門との間でDXに対する認識のズレが生まれ、社内の変革や導入がうまく進まない可能性があります。
また、DXが単なるITツールの導入として捉えられがちであるため、社内での課題解決や導入の目的をはっきりと明示し、共有することも求められます。
事業戦略
事業戦略としては、顧客や社会に存在する問題を解決し、新しい価値を創出することと、組織内の生産性向上や働き方改革、既存事業の効率化と技術負債の軽減を同時進行でこなしていくことが重要です。
また、既存事業の見直しで余力を生み出し、新規事業の創出に充てることで企業の競争力を高められます。
推進戦略
DXを促進する際には、一気に全社に拡大させるのではなく、最初に焦点を当てるべき部門を選定し、そこからスモールスタートを切りましょう。その後、段階的に取り組みを広げていく方針をとります。この方法を取ることで、成功した実績を生み出してから全組織に展開することができ、成功の可能性が高まります。
また、DX推進の課題を早期に明らかにし、柔軟に対応していくアジャイルな手法も成功の鍵と言えます。
DX戦略の社内改革の重要性
DXの進化には、単なる技術革新だけでなく、組織全体の社内改革も不可欠です。社内改革は、自社の組織構造や制度を見直し、変革を促進するプロセスを指します。市場の変動や競合状況の変化に即座に対応するためには、業績低下やリスク発生時には社内改革が必要となります。
組織や業務プロセスを柔軟に変化させることで、企業は競争力を高め、長期的な成長と持続可能性を確保できます。新しい制度や組織の導入により問題が解決されれば、それが社員のモチベーション向上や働き甲斐につながります。
ただし、社内改革は容易なものではありません。人々は慣れ親しんだ環境を好み、変化を嫌う傾向があります。特に現状に満足する社員が多い場合、社内改革は遅滞しやすくなります。また、改革が通常業務の負担増に繋がることを嫌って反対意見が生じることもあります。
円滑な改革の推進には、反対意見を排除するのではなく、コミュニケーションを通じた対話が不可欠です。改革の目的やビジョンを共有し、実行のメリットや悪影響を明確に伝え、社員個人のメリットも提示することが重要です。頻繁な意見交換を通じて経営陣と現場の間のズレを最小限に抑え、社員の協力体制を構築することは、外部関係者との円滑で安全なコラボレーションにもつながります。DXの推進において、社内の改革が成功することは、企業全体の成長に寄与します。
まとめ
デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略は、情報技術(IT)を活用して企業の社内業務やビジネスモデルを変革し、戦略的に市場競争での優位性を確立することを指します。この戦略的アプローチにより、業務効率化、生産性向上、高付加価値ビジネスモデルの創出などのメリットを確実に得ることができます。同時に、市場競争力の確保や2025年の技術的な変革に伴うリスクを回避するために、企業は積極的にDXに取り組む必要があります。
DXの実現には、経営者だけでなく組織全体の協力が欠かせません。しかし、どのようにアクションを起こすか迷っている場合は、経済産業省が提供する「DX推進ガイドライン」や「デジタルガバナンス・コード」、「DXレポート」などを活用してみましょう。これらの資料は企業がDXに取り組む際の参考となるものであり、自社のDX戦略を策定する際に役立ちます。自社のDX戦略のビジョンを明確にし、組織全体で一丸となってDXを推進していくことが、DXの成功への近道です。