ペーパーレス化への移行方法とは?【導入手順と目標設定について解説】

ペーパーレス化への移行方法とは?【導入手順と目標設定について解説】

近年、情報技術の進歩や働き方改革の推進により、企業界ではペーパーレス化への関心が高まっています。ペーパーレス化の手法は企業の目的やニーズに応じて多様であり、適切なアプローチを選択することが重要です。

この記事では、ペーパーレス化の具体的な方法や手順、また注意すべきポイントや重要な考慮事項について解説します。

ペーパーレス化とは

ペーパーレス化とは、これまで紙を用いて保管していた書類を電子的な形式に変換し、紙の使用を極力排除する取り組みです。

企業はペーパーレス化により、生産性の向上やコストの削減など、多岐にわたる利点を享受することができます。また、ペーパーレス化の推進は、ビジネスの観点だけでなく、持続可能な開発目標(SDGs)や環境保護の観点からも喫緊の課題として認識されています。

ペーパーレス化への必要性

厚生労働省が「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を発表し、その中でペーパーレス化の取り組みを支持していることが述べられています。

また、令和3年度の税制改正により、電子帳簿保存法が改正され、税務署長の事前承認制度が廃止されるなど、ペーパーレス化が後押しされています。

さらに、ビジネスにおける競争優位性の確保を目指す中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されています。DXを促進するための施策の一環として、ペーパーレス化が挙げられます。

これらの要因により、テレワーク環境の整備や電子帳簿保存法の改正、そしてDXの必要性が企業に影響を与え、ペーパーレス化の推進が求められています。

【参考】厚生労働省:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン

    国税庁:電子帳簿保存法が改正されました

ITツールの採用が不可欠なペーパーレス化の実現

ペーパーレス化の必要性は認識されつつも、日本企業においては依然として紙文化が強く根付いており、ペーパーレス化の推進が容易ではない状況が続いています。ペーパーレス化を実現するためには、ITツールの導入と活用が不可欠です。

たとえば、従来の紙ベースの契約書に対するハンコ押印業務を廃止するには、電子契約サービスの導入が必要です。また、紙の請求書を利用して取引先に送付している場合、請求書発行システムを導入すれば、電子データでのやり取りが可能となります。

このように、企業は自身のニーズに応じて適切なITツールを導入することで、ペーパーレス化を推進することができます。次のセクションでは、ペーパーレス化を実現するための具体的な方法について詳細に解説していきます。

ペーパーレス化の実現方法

以下では、ペーパーレス化を促進するためのツールの適切な利用方法についてご紹介いたします。

紙文書の電子化

既存の紙文書を電子化することで、ペーパーレス化を実現できます。例えば、スキャナーを用いて紙文書をデジタル化し、OCR(Optical Character Recognition)ソフトウェアを利用することで、テキストを認識し、検索可能なデータに変換することができます。

その上で、クラウドストレージを活用することで、インターネット上でデータを管理することができます。これにより、紙文書の保管や共有にかかる手間を省くことができます。また、端末とネットワークに接続すれば、時間や場所を問わずデータにアクセスでき、情報共有の速度を向上させることができます。さらに、アクセス権を細かく設定することで、セキュリティを強化することも可能です。

請求書発行システムの導入

請求書の発行には、紙代や印刷代、そして郵送代など、多額の費用がかかります。このため、請求書発行システムの導入によって、請求書作成から送付までのすべての業務をオンラインで行うことができ、ペーパーレス化を促進できます。

さらに、請求書発行システムを利用することで、業務の一部を自動化することが可能であり、これによって人為的なミスを減らし、生産性を向上させることができます。

電子契約サービスの利用

契約書を電子化することには抵抗感を持つ人もいますが、特定の要件を満たせば、電子契約も書面と同様の法的効力を持たせることが可能です。そのためには、電子署名やタイムスタンプなど、電子契約の締結に適した機能を備えた電子契約サービスの利用が推奨されます。

電子契約サービスを利用すれば、オンライン上で契約を締結し、郵送などの手間を省くことができます。これにより、業務の効率化が期待できます。また、収入印紙の必要性もなくなるため、コストの節約にもつながります。

ワークフローの電子化

紙を使用して申請・承認・決裁を行うことで、申請処理の遅延や状況把握の困難といった課題が生じる場合があります。また、オフィスに出勤しなければ業務が進まない状況を招き、柔軟な働き方の実現が妨げられる可能性もあります。

このような課題に対処するために、ワークフローシステムの導入が有効です。ワークフローシステムを利用することで、申請・承認・決裁などの業務をオンライン上で効率的に管理することができ、場所を問わず業務を行うことが可能となります。また、稟議の進捗状況を簡単に確認できたり、通知やアラート機能を活用することで、申請承認プロセスを円滑化することもできます。

Web会議システムの活用

紙を使用した資料の作成、配布、保管、廃棄には、費用や業務負担が発生します。そこで、Web会議システムを導入し、オンラインミーティングを活用することで、ペーパーレスの会議を実現できます。事前に電子データで情報を共有すれば、紙のコストを削減できます。

ペーパーレス化のメリット

以下では、ペーパーレス化の推進によるメリットについて詳細に説明いたします。

業務の効率化

業務において紙を使用している場合、必要な書類を見つけるのに時間がかかることがあります。紙の書類を共有するには、印刷や製本、配布などの手続きが必要であり、さらに一人ひとりに資料を配る手間もかかります。

ペーパーレス化を実現することで、紙の代わりに電子データを利用することが可能となります。これにより、検索機能を活用して迅速に必要な情報にアクセスすることができます。また、データをオンライン上で共有することで、従業員や取引先との情報共有が容易になり、業務負担を軽減できます。

以上のように、ペーパーレス化を進め、ITツールの機能を適切に活用することで、業務の効率化を図ることができます。

コストの削減

紙の文書を扱う場合、紙代や印刷代、郵送費、印紙代など、多岐にわたるコストがかかります。さらに、印刷機やシュレッダーのメンテナンス費用や、書類を保管するためのスペース費用も必要です。

ペーパーレス化を実現すれば、これらのコストを削減することが可能です。紙を使用しないため、紙代や印刷代が不要となります。また、紙の書類や印刷機、シュレッダーなどのスペースを減らすことで、オフィスの縮小やスペース効率化が実現でき、コスト削減につながるでしょう。

セキュリティの強化

紙の資料を扱う場合、紛失や盗難のリスクが懸念されます。また、紙の劣化により情報を適切に保管できなくなる可能性もあります。

ペーパーレス化を実現することで、情報を電子データとして管理することができます。この場合、パスワードやアクセス権限を設定してセキュリティを強化することが可能です。また、システムにはログが残るため、誰がいつどこで何のデータをアクセスしたかが明確に記録されます。さらに、電子データであれば、バックアップ体制を整えることでデータの紛失を防ぐことができます。

多様な働き方の推進

紙の文書を扱っている場合、印刷や押印、そして郵送のためにオフィスに出勤しなければならないこともあります。

ペーパーレス化を進めることで、紙の代わりに電子データを利用できるため、テレワークなど、柔軟な働き方を促進することが可能となります。

ペーパーレス化の導入手順

以下では、ペーパーレス化を実現するための手順について詳しく解説いたします。

ペーパーレス化の目標を明確に定める

ペーパーレス化を促進する際には、まず目的を明確に定めることが肝要です。目的を明確にすることで、具体的な目標を設定し、ペーパーレス化を達成するための計画を適切に立てることが可能となります。また、目標を数値化するなど、後で評価しやすい形で設定することが望ましいでしょう。

ペーパーレス化の範囲と対象の設定

目的が確定したら、ペーパーレス化の範囲や対象を決定します。業務フローとコストの観点から、一度に全社的なペーパーレス化を実現するのは難しい場合もあります。そのため、ペーパーレス化を導入しやすい業務や部門など、適切な範囲を設定することが重要です。

また、企業で取り扱う紙の書類には、会議資料、稟議書、決裁書、請求書、契約書などさまざまな種類があります。したがって、電子化する具体的な書類も明確にする必要があります。

ペーパーレス化ツールの選択

ペーパーレス化を進めるには、適切なITツールの導入が欠かせません。近年、様々な機能を備えたITツールが登場しています。

ITツールを選定する際は、目的や範囲、対象を考慮することが肝要です。たとえば、テレワークを促進するためには、クラウドストレージや電子契約サービスなど、オフィスに出社せずに業務を行うためのツールを選定する必要があります。

ツールの運用ルールと業務フローの整備

ペーパーレス化を進める際には、ITツールの導入に伴う運用方針の整備が欠かせません。事前にITツールの運用ルールを策定することで、従業員がスムーズに業務を遂行できるようになります。

さらに、業務フローの変更が必要な場合もあります。例えば、契約書を電子化する際には、契約手続きに関するルールやプロセスを変更する必要が生じるでしょう。

ペーパーレス化の効果を検証し、改善策を考える

運用ルールや業務フローの整備を完了し、ペーパーレス化を実施して効果を評価し、改善を行いましょう。

たとえば、ITツールの導入コストとペーパーレス化により削減できた費用を比較することで、ペーパーレス化の成果を測定できます。

このように、費用対効果を検証することは、ペーパーレス化を推進する上での重要な評価手段です。また、結果を踏まえて改善を行うことで、組織内でのノウハウを蓄積し、ペーパーレス化の計画をより効果的に推進していくことができます。

ペーパーレス化を促進する際のポイントと注意点

以下では、ペーパーレス化を促進する際の重要な注意点や成功のポイントについて詳しく説明します。

段階的なアプローチでペーパーレス化を推進するためのガイドラインを策定

全社的なペーパーレス化を一気に進めると、高いコストや業務負担が生じ、計画通りに進めることが難しくなることがあります。

そのため、社内のノウハウを蓄積し、段階的に全社に展開可能な形で進めることが重要です。これには、特定の業務や部署など、ペーパーレス化を容易に導入できる部分から始めていくことが有効です。その際、推進のガイドラインを策定しておくことで、計画を円滑に進めることができます。

自社の目標に適したペーパーレス化ツールを選択する

企業がペーパーレス化を目指す理由は多岐にわたります。そのため、企業独自のニーズに合ったペーパーレス化ツールを選択することが重要です。

例えば、コスト削減が主な目的であれば、まずは無料で提供されているツールを試してみることが賢明です。また、有料ツールでも、無料体験期間が提供されているものもありますので、その利用を検討することも重要です。さらに、従業員のITスキルや使いやすさに配慮して、適切なツールを選定することが必要です。

社員への情報共有やサポートを充実させる

ペーパーレス化を円滑に進めるためには、現場で業務を担当する従業員からの理解と協力が不可欠です。そのため、ペーパーレス化の目的や利点を事前に従業員に周知し、彼らの支援を得ることが肝要です。

さらに、ペーパーレス化を開始した後も、従業員が戸惑わないようにするために、定期的な研修やセミナーなどを通じてフォローアップを行うことが必要です。

取引先の理解を得る

ペーパーレス化を推進する際には、自社の従業員だけでなく、取引先にも影響が及ぶことがあります。例えば、紙の請求書から電子請求書への移行により、取引先に十分な情報提供がなければ、混乱を招く可能性があります。

また、取引先が紙の請求書のみを利用している場合、電子請求書の採用に反対されることもあります。このような事態を避けるためには、ペーパーレス化ツールの導入に際しては、取引先の意向を事前に確認することが重要です。

電子帳簿保存法を確認する

電子帳簿保存法の改正により、ペーパーレス化の促進は容易になりましたが、電子データの保管には厳格な要件が存在します。

たとえば、請求書、領収書、契約書、見積書などを電子データで送付する場合、特定の条件下での電子保存が必要です。ただし、令和5年12月31日までの電子取引に関しては、電子データを印刷して保管し、税務調査などで必要に応じて提示・提出できれば問題ありません。

ペーパーレス化を進める際には、電子帳簿保存法を遵守し、電子データを適切に管理することが重要です。

【参考】国税庁:電子取引関係

ペーパーレス化を円滑に推進するための手順を理解し、スムーズに進めよう!

ペーパーレス化の手法は、企業の目標や採用するITツールによって異なります。ペーパーレス化を進める際には、まずはっきりとした目標を設定することが不可欠です。

また、全社的なペーパーレス化を一気に実現するのは困難な場合もありますので、段階的な取り組みが勧められます。適切なITツールを導入し、企業独自の進行方法でペーパーレス化を推進しましょう。