電子契約サービスとは?【基本からメリット、導入手順、選び方まで詳しく解説】
電子契約サービスは、契約書の締結プロセスを電子化するサービスです。様々な企業での導入が進み、政府による推進も加速しています。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、企業は在宅勤務(テレワーク、リモートワーク)を採用するケースが増加しています。このテレワーク環境では、紙の契約書の取り扱いが難しくなり、それに伴い電子契約への関心が高まっています。
電子契約は既に幅広く利用されていますが、その仕組みを理解しないままでは導入が難しい場合があります。この記事では、電子契約の仕組みを理解することが企業にとって有益かどうかを判断するための手助けとなるでしょう。
電子契約サービスを導入検討する際、その仕組みや手順、利点・欠点、選び方などについて気になることがあるかもしれません。今回は、電子契約サービスの基本的な知識を解説します。
電子契約サービスの仕組み
近年、多くの企業が新しい電子契約サービスを立ち上げています。働き方改革や業務効率化の流れに乗り、政府も「電子契約」を推進しています。まずは、電子契約サービスに関する基本的な知識に焦点を当てて解説します。
電子契約とは
電子契約サービスの説明に入る前に、まず電子契約とは何かについて確認してみましょう。電子契約は、かつて書面で行われていた契約の締結をオンライン上で実施すること、またはそのような契約自体を指します。同様に、オンライン上での申し込みや注文も、幅広い意味での電子契約に含まれます。
電子契約サービスとは
電子契約を実施するためのプラットフォームを、電子契約サービスと呼んでいます。企業はペーパーレス化と業務効率向上を目指し、この電子契約サービスの導入が増加しており、市場規模も拡大しています。
電子契約サービスの利用により、契約書の印刷費用を削減し、契約書の管理にかかる手間を軽減することが可能です。
書面契約と電子契約の違い
伝統的な書面契約と電子契約にはいくつかの重要な違いがあります。主なものとして、契約書の媒体と署名手段が挙げられます。従来の契約では、紙に契約書を作成し、原本を保存する必要がありましたが、電子契約では電子データとして作成し、デジタル形式で保存できます。
書面契約では、契約の証拠として記名や押印が必要ですが、電子契約では電子署名とタイムスタンプがその代替となります。電子署名は電子文書におけるデジタル署名であり、法的な効力が認められています。また、タイムスタンプはデータの存在や改ざんのないことを証明する技術です。
書面契約では印鑑証明書が本人確認に使用されますが、電子契約では電子証明書がこれに相当します。電子証明書はオンライン上での本人確認を行うもので、電子契約サービスにおいて電子署名の検証に使用されます。
項目 | 書面契約 | 電子契約 |
---|---|---|
媒体 | 紙 | 電子データ |
署名方法 | 記名・押印 | 電子署名 |
締結日時の証明 | 日付の記入 | タイムスタンプ |
本人の確認 | 印鑑証明書 | 電子証明書・メール認証 |
印紙 | 必要 | 不要 |
契約書の渡し方 | 郵送・持参 | インターネット上での電子データによる受け渡し |
保管方法 | ファイルやキャビネットなどで保管 | 自社サーバー・外部サーバーでの保管 |
電子署名と電子サインの違い
電子契約には、電子署名方式と電子サイン方式という2つの手法があります。
電子署名は、電子証明書により本人が押印したことを証明します。国が認めた認証局で取得された電子証明書を使用し、高い証拠能力を有します。主に重要な契約書類での利用が適しています。
対照的に、電子サインはメールやSMSなどを通じて本人確認を行います。電子署名に比べて証拠能力は低いですが、手軽に広範囲での利用が可能です。また、電子サインは電子証明書の取得が不要であり、相手方の負担が軽減されます。
項目 | 電子署名 | 電子サイン |
---|---|---|
電子証明書の発行 | 必要 | 不要 |
本人性の担保 | 電子証明書 | メールやSMSなど |
証拠能力 | ◎ | ○ |
電子契約に関する主要な法律
電子契約サービスの注目度が高まる中で、法的な環境整備も重要な要因となっています。2000年以降、順次改定が行われ、電子契約が一般的に受け入れられるようになりました。
以下に、押さえておくべき主要な関連法律を紹介します。
民法
2020年4月に施行された改正民法において、「契約方式の自由」が規定されました。これにより、これまで契約成立において基本的であった書面の必要性が緩和され、書面が必須でないという大原則が確立されました。
民法 第522条(1項省略)
2. 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
【参考】民法(明治二十九年法律第八十九号)|e-Gov法令検索
電子署名法
「電子署名」を、署名者を特定でき、作成以降にデータが改変されていないことを検知し担保できるという技術的措置だと定義した法律が、電子署名法です。(電子署名法第2条1項)
この定義に準ずる電子署名を本人が電子ファイルに施すことで、契約に真正な成立が認められることになります。
電子署名法 第3条
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
【参考】電子署名及び認証業務に関する法律(平成十二年法律第百二号)|e-Gov法令検索
電子帳簿保存法
税法上では、契約書、注文書、領収書、見積書などの取引情報に関する書面は、法人税法施行規則59条などにより、7年間の保存が義務づけられています。
電子帳簿保存法は、国税帳簿書類の電子データでの保存を認める法律であり、以下の条件を満たすことで紙の契約書面の原本と同等に扱われ、長期の原本保存の負担が軽減されます(電子帳簿保存法10条)。
電子帳簿保存法 第10条 1項
(1) 電子取引の取引情報に係る電磁的記録は、ディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で出力されることを要するのであるから、暗号化されたものではなく、受信情報にあってはトランスレータによる変換後、送信情報にあっては変換前のもの等により保存することを要する。
(2) 取引情報の授受の過程で発生する訂正又は加除の情報を個々に保存することなく、確定情報のみを保存することとしている場合には、これを認める。
(3) 取引情報に係る電磁的記録は、あらかじめ授受されている単価等のマスター情報を含んで出力されることを要する。
(4) 見積りから決済までの取引情報を、取引先、商品単位で一連のものに組み替える、又はそれらの取引情報の重複を排除するなど、合理的な方法により編集(取引情報の内容を変更することを除く。)をしたものを保存することとしている場合には、これを認める。
【参考】法第10条((電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存))関係|国税庁
電子契約サービスの機能一覧
以下では、電子契約サービスの主要な機能について一覧でご紹介いたします。
電子署名 | 「本人性」「非改ざん性」を担保するための署名機能 |
送信 | 取引先への契約書の送付方法を選択できるなどあると便利な機能 |
権限管理・ガバナンス強化 | アクセス権限や操作ログを設定・管理してガバナンスを強化するための機能 |
文書・ファイル管理 | 締結した契約書やその他文書をサービス上で管理するための機能 |
アラート | 承認などのステータスが長期間滞っている場合に通知できる機能 |
ユーザー管理 | 所属部署やプロジェクトの単位でグルーピングを実施できる機能 |
ワークフロー | 申請・承認・決裁・差し戻しといった業務フローを可視化するための機能 |
セキュリティ | 電子契約の信頼性を高めるためのセキュリティ機能 |
各電子契約システムには異なる機能が搭載されているため、サービスを導入する前に、電子契約システム公式サイトなどを詳しく確認し、適切なサービスを選定するようにしましょう。
電子契約サービス導入メリット
電子契約サービスの導入には法的・技術的な注意が必要ですが、その導入には多くのメリットがあります。ここでは、電子契約サービスの導入によって得られるメリットについて解説します。
ペーパーレス化の促進
紙の契約書を取りまとめるには、通常、オフィス内でのファイリングや棚への収納が必要です。しかし、電子契約サービスの採用により、これらの紙の契約書を電子化し、オンラインで容易に管理できます。これにより、業務のペーパーレス化を促進できます。
経費削減として印紙税や事務経費を削減できる
従来の書面契約では、契約に際しては印紙税の支払いが必要であり、契約書の送付には印刷や郵送に伴う費用が発生します。ところが、電子契約を導入することで、印紙税が不要となり、契約書の送付は電子データによって行われるため、印刷や郵送にかかる費用を大幅に削減できます。このような電子契約の導入により、契約プロセスに伴うコストを効果的に軽減できる利点があります。
契約プロセスの効率向上が可能
契約業務の手続きには、書面でのやり取りや郵送に伴う時間がかかります。従来の方法では数週間を要していましたが、電子契約サービスを活用することで、オンライン上でのスムーズなやり取りが可能となり、業務時間を大幅に短縮できます。これにより、迅速な契約締結が実現し、ビジネスのスピードアップが期待できます。
契約書のデジタル化により安全な管理・リスクの軽減
書面契約では契約書を物理的な場所で管理する必要があり、探す手間や紛失・盗難のリスクがついてまわりました。しかし、電子契約サービスを利用することで、契約書を電子データとして安全に保管し、オンライン上で簡単に一元管理できます。これにより、契約書の探し出しや誤紛失、盗難のリスクを大幅に軽減できます。
顧客満足度の向上
近年、業務プロセスの効率向上やコスト削減が求められ、それに伴い社会全体でデジタルトランスフォーメーション(DX)やペーパーレス化が注目されています。この流れに乗り、企業は電子契約サービスの導入と契約書の電子化に取り組んでいます。
取引先から契約書を電子化してやり取りする要望が寄せられた場合、自社が電子契約に対応していないと、引き続き紙での取引が続くことになります。電子契約サービスの導入を通じて、契約書の電子化を進めることで、柔軟かつ迅速に取引先の要望に応じることが可能となり、これが顧客満足度の向上に寄与します。
多様な働き方を推進できる
紙の契約書を使用している場合、担当者は印刷、押印、製本、郵送、保管などの業務のためにオフィスに出勤する必要があります。しかし、電子契約サービスを導入し、電子化することで、リモート環境でも契約業務を遂行できるようになります。
これにより、テレワークやハイブリッドワークなど、様々な働き方を促進できるようになります。
電子契約サービス導入のデメリット・注意点
電子契約サービスを採用することで多くのメリットが生まれる一方で、注意すべきポイントや検討事項も存在します。ここでは、電子契約サービスのデメリットや注意点について具体的にご紹介いたします。
導入や運用にコストがかかる
電子契約サービスの取り入れには、企業内部の環境整備やITツールに伴う初期費用・月額費用など、様々なコストがかかります。このため、電子契約サービスの採用目的をクリアにし、コスト対効果が見込まれるサービスを検討することが重要です。
なお、一部のサービスでは無料トライアル期間が提供されているため、実際に利用して感触を確かめることもおすすめです。
取引先の理解が必要になる
電子契約サービスを利用するには、社内だけでなく取引先との理解も不可欠です。電子契約を導入するためには、取引先に電子証明書の発行やサービスの利用登録などの協力が必要です。
多くの電子契約サービスは契約書の受信において取引先に負担をかけない簡便で無料の手続きを提供しており、電子証明書を必要としない認証方式を導入している場合もあります。取引先に負担をかけないサービスの選択が重要です。
書面契約との並行運用が必要になる
電子契約が普及している一方で、未だに書面契約を採用している企業も少なくありません。契約の締結は企業間のやり取りで完結するわけではないため、取引先の理解も不可欠です。
もし、取引先が電子契約に理解を示さない場合は、書面契約を選択せざるを得ません。従って、電子契約サービスの導入時には、このようなシナリオを考慮し、取引先の要望に柔軟に対応できるよう、書面契約にも対応した運用フローを用意しておくことが重要です。
セキュリティリスクがある
近年、サイバー攻撃の脅威が増大し、企業がセキュリティ上のリスクにさらされるケースが増えています。電子契約サービスを利用する際には、メールアドレスやSMSなどの通信手段を介して情報をやり取りすることが一般的ですが、これによりなりすましや不正アクセスといったリスクが潜在的に存在します。
したがって、企業は自社のセキュリティ体制を十分に整備し、信頼性の高い電子契約サービスを選択することが重要です。セキュリティ機能が十分に備わっているサービスを導入することで、機密情報や個人情報の保護を確保し、安全な契約プロセスを実現することができます。
電子契約サービス導入の手順
これまでに電子契約サービスの基本からメリット、注意点まで解説してきました。ここでは、電子契約を導入する手順について詳しく説明します。
電子契約サービスを比較・検討する
現在、多くの電子契約サービスが市場に存在し、ほとんどのものが法律で定められた技術要件に準拠しています。しかし、万が一、法律で要求される技術要件に合致していないサービスを採用してしまった場合、取引先との契約に影響が及ぶ可能性があります。そのため、導入を検討する前に、サービスの安全性を十分に確認することが重要です。
自社が取り扱う契約書の種類や契約業務の手順によって、最適な電子契約サービスは異なります。したがって、自社の導入目標に合わせて、最適な電子契約サービスを選択する必要があります。
業務フローの策定
電子契約サービスを取り入れる際には、契約に関連する業務フローを再検討する必要があります。電子契約サービスには、社内の承認プロセスをオンラインで行う機能や、外部サービスとの連携が可能なものもあります。選択した電子契約サービスに適した業務フローを設計することで、導入後の運用を円滑に進めることができます。
社内・取引先への周知
電子契約サービスを円滑に導入・運用するためには、事前に社内および取引先に対して情報を周知することが肝要です。社内向けには、関連部署に業務フローの変更や電子契約サービスの利用方法、導入の背景などを明確に説明し、積極的な移行を促します。取引先にも契約の電子化に関する詳細な説明を行い、使いやすいマニュアルを提供することで、スムーズな運用を実現します。取引先との合意を確認し、適切な体制を整えることで、トラブルを未然に防ぎます。
電子契約サービスの選び方
以下では、電子契約サービスの選びからについて詳細に解説します。
当事者型か立会人型か
電子契約を導入する際には、電子署名のタイプを選択する必要があります。一般的には、「当事者型」と「立会人型」の2つの電子署名があります。
「当事者型」の場合、自社と取引先の両方が電子証明書を取得し、厳格な本人確認を行います。この方法の利点は、信頼性が高いことですが、電子証明書の取得には時間とコストがかかるというデメリットもあります。
一方、「立会人型」では、事業者が介入してメールなどで本人確認を行います。このため、当事者型と比較してセキュリティが低くなりますが、手続きが簡単であり、自社と取引先の両方が負担なく契約を行うことができます。
電子契約サービスによっては、「当事者型」と「立会人型」の両方を採用しているものもあります。自社のニーズに合わせて電子署名の方法を選択し、適切な電子契約サービスを導入することが重要です。
目的にあった機能が搭載されているかどうか
電子契約サービスには、様々な機能が搭載されています。例えば、セキュリティを強化したい場合には、「アクセス制限」「二要素認証」といったセキュリティ機能が重要です。また、業務効率化を図りたい場合には、「ワークフロー」「外部連携」といった機能が役立ちます。
これらの機能を適切に活用することで、目的に合った効果的な電子契約サービスを導入することが重要です。
実績や信頼性は十分かどうか
電子契約の採用には、自社だけでなく、取引先や関連する事業者との協力が必要です。電子契約サービスを提供する事業者がサービスの仕様や機能を変更する可能性もありますので、「導入実績」「継続利用率」「利用者数」といったデータを検討し、信頼できる提供業者を選定することが重要です。
セキュリティ対策は万全か
契約書の改ざんや盗難は、取引の円滑な進行を阻害し、企業の業務に深刻な影響を及ぼす可能性があります。このため、電子契約サービスのセキュリティ機能を慎重に評価することが重要です。セキュリティ機能の一例として、以下が挙げられます。
- 暗号化通信
- ファイアウォールの設置
- IPアドレスの制限
- 二段階認証の導入
- データの定期的なバックアップ
- ISO 27001の認証取得
企業は自身のセキュリティニーズに合わせて、適切なセキュリティ機能が備わった電子契約サービスを選択する必要があります。
外部連携はしやすいか
電子契約サービスの中には、外部連携機能を備えたシステムも存在します。これにより、API連携などを通じて他のシステムと連携できます。例えば、既存のワークフローシステムや文書管理システムと組み合わせることで、業務プロセスを効率化し、企業の生産性向上に貢献できます。そのため、自社の既存システムと電子契約サービスが連携可能かどうかを確認し、適切なサービスを選択することが重要です。
契約業務の効率化に向けて電子契約サービスを活用しましょう!
電子契約サービスの導入には、多岐にわたる利点があります。例えば、従来の紙の契約書に比べて、費用や時間の節約が可能であり、契約業務のスピードも大幅に向上します。ただし、導入にあたっては注意が必要であり、様々な課題や障壁が存在します。
電子契約サービスの種類も多様であり、自社のニーズや導入目的に即した選択が不可欠です。したがって、導入前には十分な検討と比較検討が求められます。