電子署名をPDFに付与する方法とは?【手順や確認方法、注意点までわかりやすく解説】

電子署名をPDFに付与する方法とは?【手順や確認方法、注意点までわかりやすく解説】

近年、電子契約の利用が増加しています。これは、働き方改革の進展やクラウドサービスの普及に影響されており、企業が電子契約を選択するケースが増えているからです。この記事では、PDFに電子署名を追加する方法や手順、留意点、送信者と受信者が考慮すべきポイントについて詳しく解説しています。

電子署名とは

電子署名は、電子文書の契約において、「作成者本人による正式なもの」であり、かつ、その内容が「改ざんされていないこと」を証明する技術的手段です。電子署名は、紙文書でのサインやハンコに相当します。紙文書と異なり、電子文書には直接印を押すことができないため、電子署名が必要とされます。また、電子文書は簡単に複製や書き換えが可能であるため、信頼性を確保する必要があります。

電子署名の必要性は、電子文書がトラブルの発生時において法的な効力を有するためです。電子文書が作成者本人によるものであり、かつ改ざんされていないことを証明できない場合、契約の法的効力が認められない可能性があります。

本人性の証明手段として電子証明書が使用されます。これは信頼できる認証局が発行し、持ち主が本人であることを証明するものであり、印鑑証明書のような役割を果たします。電子署名には電子証明書とセットで利用され、本人性を確認します。

改ざん防止手段としては、タイムスタンプが利用されます。電子文書に電子的なスタンプを付け、その時間をデータとして記録することで、文書が存在し、その後も改ざんされていないことを証明します。

PDFに電子署名を付与する方法

PDFに電子署名を付与する手段は複数あります。Adobe Acrobat DCやAdobe Acrobat Reader DCを利用している場合、PDFファイルに直接電子署名を追加することができます。また、無料の電子署名ツールを使用しても、PDFファイルに電子署名を簡単に付与できます。

以下では、PDFファイルに電子署名を追加する具体的な手順を紹介します。

Adobe Acrobatの署名機能を利用する

Adobe Acrobat DCやAdobe Acrobat Reader DCは、PDFファイルに電子署名を付与するための便利な機能を提供しています。電子署名を追加するには、デジタルID(電子証明書)が必要ですが、Adobe Acrobatを使用する場合は、自己署名のデジタルID(Self-SignデジタルID)を手軽に利用できます。

以下は、Adobe Acrobat Readerで電子署名を追加する手順の概要です。なお、Adobe Acrobat Readerは無料で入手可能です。

  1. Adobe社の公式ウェブサイトからAdobe Acrobat Reader DCをダウンロードしてインストールする。
  2. Adobe Acrobat Readerを起動し、「編集」タブから「環境設定」をクリックする。
  3. 「分類」欄から「署名」を選択し、「IDと信頼済み証明書」の右にある「詳細」をクリックする。
  4. 「デジタルIDと信頼済み証明書の設定」ウインドウで、「今すぐデジタルIDを作成」にチェックを入れ、必要事項を入力する。
  5. デジタルIDのパスワードを設定し、「完了」をクリックする。
  6. 署名したいPDFファイルをAdobe Acrobat Readerで開き、「ツール」タブから「証明書」の下にある「開く」をクリックする。
  7. マウスで署名したい箇所をドラッグし、電子署名を挿入する。
  8. 「デジタルIDで署名」ウインドウが表示されたら、「続行」をクリックし、設定したパスワードを入力して署名を完了する。
  9. 署名したPDFを「名前を付けて保存」で保存する。

これにより、Adobe Acrobat Readerを使用してPDFに簡単かつ安全に電子署名を付与することができます。

ただし、土地の登記申請や重要な契約など、高いセキュリティが求められる場合は、信頼性の低いSelf-SignデジタルIDではなく、信頼できる第三者機関が発行した電子証明書を取得する必要があります。

多数配布する場合や、厳格な身元保証が求められるような場合は、AcrobatのSelf-SignデジタルIDではなく、AdobeパートナーからデジタルIDを取得することをお勧めします。大半の商取引では、認証機関と呼ばれる信頼されているサードパーティプロバイダからのデジタルIDを必要とします。

【参考】PDF ファイルで電子署名を利用する方法 (Acrobat DC / Acrobat Reader DC)|Adobe

無料の電子署名ソフトを活用する

無料の電子署名ソフトを活用すれば、PDFファイルに簡便に電子署名を追加できます。一般的な手順は以下の通りです。

  1. 電子署名を付与したいPDFファイルをソフトにアップロードする。
  2. ソフトの指示に従い、電子署名を追加する。
  3. 電子署名が付与されたPDFファイルをダウンロードする。

ただし、無料の電子署名ソフトはPDFファイルにのみ対応していることがあり、操作性に課題が生じることもあります。例えば、WordやExcelで作成したファイルを利用する場合は、一度PDFに変換する手順が必要となり、これには時間と手間がかかる可能性があります。

また、電子署名ソフトで生成されたデジタルIDの信頼性には疑問が生じることがあります。社内での利用においては問題ないかもしれませんが、重要な契約に関わる場合は、信頼性の高い認証局に依頼して電子証明書を入手することが重要です。

PDFに電子署名を追加した後の手続きについて

電子署名が完了したら、PDFを送信する側と受信する側にはそれぞれ手続きが必要です。PDFファイルをそのまま送っても、受信者は電子署名に含まれた電子証明書の妥当性を確認できません。送信者は電子証明書を検証するための「証明書ファイル」を作成し、これを受信者に提供する必要があります。

ここでは、Adobe Acrobatを使用してPDFを管理するケースを取り上げ、送信者と受信者が行うべき手順について説明します。

送信者の手続き|電子証明書の送付

PDFファイルの送信者は、電子署名を施した後、署名検証に使用するための証明書ファイルを生成し、これを受信者に提供する必要があります。もしも証明書ファイルが不足している場合、受信者がPDFファイルを開いた際に「文書の証明の完全性が不明です」というメッセージが表示され、署名情報の検証ができません。

PDFファイルの送信者は以下の手順で証明書ファイルを作成します。

  1. Adobe Acrobatのメニューで「編集」タブをクリックし、「環境設定」に進む
  2. 「分類」の中から「署名」を選択し、「IDと信頼済み証明書」を開く
  3. 使用した電子署名に対応する証明書を選択し、「書き出し」をクリック
  4. 「データをファイルに保存」をクリックし、保存した証明書ファイルを受信者に送付

上記の手順により、送信者は署名検証用の証明書ファイルを生成し、これを適切に受信者に提供することができます。

受信者の手続き|検証

PDFファイルの受信者は、送信者から提供された証明書ファイルを自身のPCにインストールし、署名情報を確認する手順が以下の通りです。

  1. ダブルクリックして証明書ファイルを開き、「連絡先の信頼を設定」をクリックします。
  2. 「この証明書を信頼済みのルートとして使用」「証明済み文書」の2つのチェックボックスにチェックを入れます。

この手順により、受信者は証明書を信頼済みのルートとして扱い、署名されたPDFファイルの署名情報を正確に検証することができます。

PDFに電子署名を付与する際の注意点

Adobe Acrobatや電子署名ソフトを利用することで、専門的なスキルや高度な知識がなくても、手軽に電子署名を付与することが可能です。この記事では、PDFファイルに電子署名を追加する際の注意点について詳しく説明します。

契約の相手方の了解を得る

2023年時点で電子契約の導入率は73.9%となっており、年々増加傾向にあります。ただし、依然として一部の企業では電子契約が浸透しておらず、手続きにおいては紙の契約書と押印が要求される場面も見受けられます。この導入の進まなさには、「紙文化」や「はんこ文化」が商習慣として依然として強く残っていることが一因とされます。電子署名が施されたPDFファイルを契約に活用する際には、相手方に対して目的やメリットなどを明確に伝え、事前に了解を得ることが必要です。

【参考】IT-REPORT 2023 Spring|JIPDEC

Adobe Acrobat Reader(無料)は署名数の制限がある

Adobe Acrobat Readerを使用すると、PDFファイルに電子署名を簡単に追加できます。ただし、Adobe Acrobat Reader(無料版)では署名の回数に制限があります。同様に、Adobe Acrobat Reader(無料版)を使用する場合、Adobe Signでの署名回数も毎月2回に制限されています。Adobe Acrobatの有料版を購入すれば、署名回数に関する制限が解除されることがあります。

業務プロセスを効率的にするために、契約書だけでなく、請求書や見積書、社内文書などもペーパーレスで処理したい場合は、電子契約サービスの導入も検討してみる価値があります。

PDFに電子署名を付与するなら電子契約サービスの導入もおすすめ

PDFファイルに電子署名を追加する手段として、電子契約サービスを活用することが考えられます。以下では、電子契約サービスの特長やメリット、注意点や選定のポイントについて分かりやすく解説いたします。

電子契約サービスとは

電子契約サービスは、契約業務を効率的に電子化するためのプラットフォームです。PDFファイルを電子契約サービスにアップロードするだけで、容易に電子署名を導入できます。このサービスはPDF以外のファイル形式にも対応しており、取引先に簡単に電子契約書を送付し、スムーズに契約を成立させることができます。

電子契約サービスを導入するメリット

電子契約サービスを活用することで、PDFファイルに電子署名を追加し、契約手続きを迅速かつ効率的に行うことができます。

電子契約の利点として、従来の紙ベース契約に比べて収入印紙が不要であり、印紙税の負担がないことが挙げられます。紙や印刷にかかるコストも不要なため、業務の経費を削減できます。

さらに、電子契約サービスはオンライン上で契約を締結できるため、物理的な場所に依存せずに契約業務を行うことが可能です。これにより、柔軟な働き方を実現し、オフィスに拘束されることなく業務を推進できます。

電子契約サービスを導入する際の注意点

電子契約に適応可能な文書かどうかの確認が不可欠です。また、電子契約が取引先に及ぼす影響を考慮し、相手方の同意を得ることが必要です。電子契約には多くの利点がありますので、これらのメリットを分かりやすく伝え、取引先の了解を取ることが重要です。

更に、電子契約サービスの利用はインターネット環境に依存しており、障害が発生するとサービスが利用できなくなる可能性があります。そのため、障害時の対策を検討し、安定的な運用を確保することが重要です。

電子契約サービスの選び方

電子契約サービスを選択する際には、明確な目的を定めることが重要です。例えば、単に電子契約書を管理するだけなのか、契約書だけでなく他の書類も包括的に管理するのかによって、必要な機能は異なります。

さらに、法的効力に対する期待も重要な要素です。電子契約には当事者型と立会人型の2つの種類が存在し、それぞれに異なるメリットとデメリットがあります。企業は自身のニーズに合わせて、電子契約の導入方式を検討することが必要です。

多様な電子契約サービスが存在するため、まずは目的を明確にし、求める機能が備わったシステムを選択することが重要です。

まとめ

PDF形式で契約書を交換する際、Adobe社のAdobe Acrobatや電子署名ソフトを使用して電子署名を行うことが一般的です。 Adobe Acrobat Reader(無料)でも電子署名が可能ですが、署名回数には制限があるため、留意が必要です。また、電子署名を押印の代替手段として使用する場合は、事前に契約相手からの了解を得ることが重要です。

PDFに電子署名を付与するだけでは、完全な機能が発揮されません。送信者は証明書ファイルを生成し、受信者が電子署名に含まれる電子証明書を検証できるようにする必要があります。電子署名の付与方法や留意点を把握し、企業に最適な電子契約サービスを導入することが重要です。