ペーパーレス化の方法とは?【進め方からペーパーレス化する際の留意すべきポイントや法律まで詳しく解説】

テレワークの急速な普及やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴い、ペーパーレス化が以前よりも注目されています。企業や組織がどのようにしてペーパーレス化を実現できるかについて、多くの方々が疑問を抱いていることでしょう。

特に新型コロナウイルスの流行によるテレワークの拡大が、ペーパーレス化の重要性を更に浮き彫りにしました。加えて、2022年1月に施行された電子帳簿保存法の改正により、電子データの保存が義務化されるなど、社会的な制度も進展しつつあります。しかし、依然として多くの企業がペーパーレス化を進める際の障害に直面しています。

ペーパーレス化を実現する方法はいくつかありますが、最も一般的なのはOCRなどのシステムを導入し、文書を電子化することです。ただし、請求書などの国税関連の文書を電子保存する場合は、税法の要件を満たす必要があるため、注意が必要です。

この記事では、なぜ現在ペーパーレス化が求められているのか、2023年10月に施行されるたインボイス制度の概要、ペーパーレス化の方法、ペーパーレス化時に留意すべきポイントなどについて詳しく紹介します。

ペーパーレス化とは?

ペーパーレス化は、デジタルトランスフォーメーションの推進やテレワークの増加といった要因により、ますます注目されています。このアプローチは、主にビジネス分野で採用され、紙の使用を削減し、文書、資料、書類などを電子化して業務プロセスの最適化とコスト削減を実珅することを指します。

ペーパーレス化の方法にはいくつかのアプローチがあります。まず、既存の紙文書をスキャナーを使用してPDFなどの電子文書に変換し、デジタルで保存する方法があります。また、最初から文書をデジタル形式(電子文書)で作成することも効果的です。PCで作成したデジタルデータをそのままデバイスで閲覧し、印刷不要にする方法もペーパーレス化の一環です。さらに、手書きなどの紙で作成した書類の内容をPCを使用してデジタルデータに変換する手法も有用です。

ペーパーレス化はビジネス分野だけでなく、一般の社会にも広がりつつあります。電子書籍の普及や本、雑誌の電子化、紙のチケットから電子チケットへの移行など、多くの例が存在します。これらの展開は、ペーパーレス化の広義の側面を示しており、紙の使用を最小限に抑え、デジタルで情報を活用するトレンドと言えるでしょう。

ペーパーレス化の現状

ペーパーレス化は、社会でどの程度進んでいるのでしょうか。ペーパーレス化をすでに推進している企業の割合や、ペーパーレス化の浸透が遅れてしまう背景について見ていきましょう。

2022年に半数以上の企業がペーパーレス化への移行を推進

企業の経営者層を対象に実施した調査結果によれば、2022年の1年間にペーパーレス化を推進したと回答した企業は50%以上に上ります。特に、稟議書や申請書をデジタル化するワークフローシステムを導入することにより、稟議書や申請書の決裁・承認フローのペーパーレス化を図った企業が多くを占めていました。

こうしたデータからもわかる通り、多くの企業はすでにペーパーレス化に向けた取り組みに着手しています。しかし、何らかの事情からペーパーレス化の推進に至っていない企業があるのも事実です。

企業におけるペーパーレス化の遅れの理由

企業のペーパーレス化が遅れる理由としては、主に下記の3点が挙げられます。ペーパーレス化が遅れる背景の中で、自社にあてはまっているものがないか、ぜひチェックしてみてください。

システム・ツール導入にかかる初期コスト

ペーパーレス化は、長期的に見るとコスト削減に寄与する可能性が高い施策です。従来は不可欠だった用紙や印刷にかかるコストや、資料等の準備に要していた労働時間の削減につながるからです。

なお、ペーパーレス化を推進するには、新たなシステムや端末を導入する必要があります。ネットワーク環境の整備やセキュリティー対策や、従業員に貸与するタブレットを新たに購入することには、相応のコストがかかります。これらのコストは、企業にとって一時的な負担増となることから、十分な費用対効果が得られる確証がない場合、ペーパーレス化に踏み切れない企業は一定数あるようです。

従業員間でのITリテラシーの差

従業員によってITリテラシーに差異があることも、ペーパーレス化を阻む原因となります。デジタル機器の取り扱いに不慣れな従業員にとって、「電子データよりも紙のほうが扱いやすい」と感じるのは自然なことでしょう。

ペーパーレス化にあたっては、そういった従業員に機器の操作方法やデータの扱い方をレクチャーする必要があることから、ペーパーレス化に踏み切ることをためらう企業もあるようです。

システム障害への懸念

紙の文書を電子化した場合、システム障害が発生するとデータが失われてしまったり、閲覧・利用できない状態になることでトラブルにつながったりするのではないかという懸念によって、ペーパーレス化に二の足を踏むケースもあります。実際には、データはクラウド上に保存されていたり、バックアップされていたりするケースが大半です。

反対に、紙の文書であっても紛失や汚損のリスクと隣り合わせであることは考慮しておく必要があるでしょう。紙の文書であれば100%安全に運用・保存できるとは言い切れないため、情報漏洩や紛失のリスクに備える意味でもペーパーレス化は有効な方策といえます。こうしたリスクやメリットを正しく伝え、理解してもらう手間がかかることも、ペーパーレス化が遅れる要因のひとつとなっているのです。

なぜ今ペーパーレス化が必要なのか

ペーパーレス化は業務上必ずしも必要ではありません。しかし、ペーパーレス化は以下の理由から業務上、強く求められています。

顧客・取引先のペーパーレス化動向に対応するため

新型コロナの流行によりリモートワークが推進されました。結果、リモートワーク可能な仕事環境の整備が各社で求められたため、ペーパーレス化が進んでいます。

取引先が「契約書は電子で」といっているのに、自社都合だけで紙契約を続けていてはレピュテーションの悪化に響きかねません。したがって、取引先がペーパーレス化を進める度に自社のペーパーレス化も求められるのです。

業務遂行の効率性と競争力向上を図るため

2023年10月施行のインボイス制度、2024年1月に猶予措置が切れる電子帳簿保存法などにより、バックオフィスの業務負荷が上がると考えられています。

とはいえ、間接部門に人員をこれ以上増やせない企業も多いようです。したがって、バックオフィス業務の効率化を迫られる企業が多いため書類の削減、ペーパーレス化が進むといえるのです。

2023年10月施行のインボイス制度

では、なぜ2023年10月施行のインボイス制度によりバックオフィスの業務負荷が上がりペーパーレス化が求められるのでしょうか。

仕入税額控除をするには適格請求書を受領する必要がある

インボイス制度は、仕入税額控除に関連する仕組みで、これは消費税の納税プロセスにおいて、受け取った消費税額から支払う消費税額を差し引いて納税を行う方法を指します。

この制度の下で、登録された事業者(通称:適格請求書発行事業者)から適格請求書、通称「インボイス」を受け取らなければ、仕入税額控除を受けることができません。

言い換えれば、これまで通り仕入税額控除を受けるためには、国に登録された請求書を受け取り、保存しなければならないのです。

適格請求書の受領側は業務負荷が上がる

2023年10月以降、購買側は適格請求書を保存する必要があります。つまり、請求書を受領した瞬間から、その請求書が国に登録された事業者によって発行されたものであるかどうかを確認する必要があります。

さらに、適格請求書は、記載要件を満たす限り、一つの文書だけでなく、複数の文書でも要件を満たすことができるため、複数の文書を受け取った場合、それらが要件を満たしているかどうかを確認する作業が必要です。つまり、視覚的なチェック作業が増加することになります。

これは単一のケースに過ぎませんが、インボイス制度の導入に伴い、バックオフィスの業務負担が増加するでしょう。そのため、業務効率化を実珸化し、業務のシステム化やペーパーレス化を進める必要があります。

ペーパーレス化促進方法

ペーパーレス化を実現する代表的な方法は以下のどおりになります。

  • OCR処理をする
  • 請求書のWeb配信をする
  • 電子契約に対応する
  • 文書管理ツールを導入する
  • ワークフローシステムを導入する

OCR処理によるペーパーレス化

ペーパーレス化を進める際、受け取った書類を単にPDFに変換するだけでは、文書の検索や管理が効率的ではありません。この課題に対処する方法として、OCR(Optical Character Recognition)を活用することが一般的です。

OCRは、書類上の文字情報を読み取り、検索可能な属性情報としてファイルに組み込む技術です。この技術を利用することで、書類内の取引日付、取引相手の名前、取引金額などの情報を抽出し、検索可能なデータとして保持できるため、ペーパーレス化の実現に大いに役立ちます。

請求書の効率的なWeb配信

ペーパーレス化と業務効率化を達成するためには、書類を受け取るだけでなく、送る際にも電子文書を活用することが不可欠です。そのため、請求書のWeb配信を検討する方法が重要です。

2023年10月から施行されるインボイス制度により、適格請求書を相手に合わせて発行する必要があり、これに伴い業務負荷が増加するでしょう。この課題に対処する手段として、Web配信システムを導入することを検討すべきです。

Web配信システムを採用することで、事前に設定したフォーマットに基づいて請求書を効率的に配信でき、業務効率化と同時にペーパーレス化を実現できます。

電子契約の実現

ペーパーレス化を推進する手法の一環として、請求書のWeb配信に加え、契約書のWeb配信も有用な方法です。2021年9月に施行されたデジタル改革関連法により、電子化が可能な契約書の種類が大幅に増加しました。

契約書の電子化は、公正証書が必要な契約書を除いてほぼ全ての契約書で実施可能です。さらに、電子契約による印紙税の非課税措置が適用されるため、契約業務にかかるコストの大幅な削減が期待できます。ソフトバンクなどがDocuSignを導入した事例では、契約書1通あたりについて2,500円のコスト削減を実現しました。

電子契約の導入により、ペーパーレス化だけでなく業務効率の大幅な向上が期待できます。したがって、電子契約の活用を真剣に検討することをお勧めします。

文書管理ツールを導入する

多数の文書を電子化した場合、各電子化ツール上で各種帳票を保存していると管理上非効率です。したがって、どこかのシステム上で関連する資料を一元管理する必要があります。その際に導入がおすすめな方法が文書管理ツールの導入です。

文書管理ツールを導入することで、社内で電子化した文書を一元管理可能になりますので、監査対応、社内業務効率の向上、ペーパーレスの促進を期待できます。

ワークフローシステムを導入する

ペーパーレス化を進めると、電子上で社内稟議をすることができます。その際に導入がおすすめなのがワークフローシステムです。社内稟議に書類を回すためだけに出社するようなことがなくなります、

また、ワークフローシステムと文書管理ツールを連携することで、承認済みの帳票を文書管理ツール上に集中保管できるような仕組みをとることもできますので、ワークフローシステムにより大幅にペーパーレス化を実現できるでしょう。

ペーパーレス化する際の留意すべきポイント

ペーパーレス化する方法はいくつかありますが、運用上で留意すべきポイントもいくつかあります。例えば以下の留意すべきポイントがありますので解説します。

国税関係書類を電子保存する際には税法に基づいた保存が必要

請求書や契約書を電子化してシステム保存する場合、電子帳簿保存法に基づいた保存が必要です。Web配信や電子契約サービスを利用して相手方とやり取りする行為は電子取引に該当しますので、電子帳簿保存法電子取引要件を満たす形式で保存をしましょう。

電子帳簿保存法電子取引要件では大枠で以下の2つの要件があります。

  • 真実性
  • 検索性

真実性の要件とは文書を授受した後に改ざんがされていないことを証明する要件です。タイムスタンプを付与する方法、事務処理規定の整備する方法などいくつか満たす方法がありますので自社の都合のよい方法を選択して対応ください。

検索性の要件では、最低、主要三項目(取引年月日、取引先名、取引金額)で検索できればよいとされています。

電子文書の真正性確保のためには電子署名が必要

民事訴訟法上で文書を裁判時の証拠として提出するためには真正性を満たす必要があるとされています。紙の場合、印鑑を押印することで真正性を証明することができていました。

電子文書の真正性は電子署名が証明する

電子文書の場合、電子署名を付与することで電子署名法3条により真正性を証明できるとされています。特に契約書などの文書は裁判時に利用することの多い文書ですので、電子署名を付与するようにしてください。

また、電子契約サービスを利用する場合、以下2つの方法が存在しますが、いずれの方法でも真正性を証明できます。立会人型を利用する方法の場合、事業者が代理で電子署名を付与するので、真正性を証明できないということはありませんので留意ください。

  • 当事者型
  • 立会人型

電子署名には5年間の有効期限があるため注意

電子署名には電子署名法上で5年間の有効期限が設定されています。これは危殆化リスク(最新の技術により電子署名の暗号アルゴリズムが突破されるリスク)に対応するためです。

電子署名法では電子署名は5年毎に最新の技術により電子署名を付与することを求めています。一方で、契約書などの国税関係書類は法人税法上などで、最低7年間の保存を求めています。

つまり、電子署名を付与しただけでは、真正性を証明できない期間が発生するのです。そこで利用されるのが長期署名です。長期署名では電子署名に対してタイムスタンプを付与することで、電子署名の有効期限を延長します。

まとめ

商取引のペーパーレス化は今後ますます進展するでしょう。ペーパーレス化の導入は企業にとって任意の選択肢ですが、その影響は取引先にも及び、逆に負担をかける可能性があるため、検討する価値があります。

ペーパーレス化の方法と事例は多岐にわたりますが、自社にとって最適な戦略を優先順位に基づいて選択し、進めていくことが重要です。ペーパーレス化は効率化と環境への配慮の一石二鳥の取り結びと言えるでしょう。今こそその導入を検討し、未来への準備を進めましょう。