デジタルガバナンス・コードとは?【概要から2.0の改訂内容までわかりやすく解説】

デジタルガバナンス・コードは、経済産業省が提唱したもので、急速にデジタル化が進展する現代社会に適応するため、企業が取るべき措置に関する指針です。このコードは、企業に対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)への主体的な取り組みを奨励し、デジタルテクノロジーによる社会変革を踏まえて経営ビジョンを策定し、公にすることなど、経営者による必要な対応を示しています。DXに興味を持つ企業にとって、このコードは重要なガイドラインとなっており、要点がわかりやすくまとめられています。

この記事では、デジタルガバナンスコードの概要から経済産業省が提唱している具体的な事柄について分かりやすく解説します。

デジタルガバナンス・コードとは

デジタルガバナンス・コードは、企業のDXへの積極的な取り組みを評価し、判断するための規準です。このコードは、企業が主体的にDXを進めることを奨励するために、経済産業省によって設けられました。

デジタルガバナンス・コードには、企業がステークホルダーとのコミュニケーションや関係性の重要性を含め、さまざまな要素が組み込まれています。

DXへの取り組みが遅れている企業に対して、デジタル技術を活用した市場変化への適切な対策、効果的なマーケティング計画、適切な人材育成など、将来の経営戦略の明確化とその公開が求められています。

デジタルガバナンスコードとDX認定制度の目的について

DX認定制度は、積極的なデジタル変革に取り組む企業を政府が認定し、その企業の評判向上を支援する仕組みです。認定を受けた企業は、社会的信用が高まり、人材、資金、情報など、企業経営に不可欠なリソースを獲得できます。

この制度は、「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づいており、デジタル変革、データ共有の基盤構築、セキュリティ対策の強化など、デジタル分野での積極的な取り組みを奨励しています。

一方、デジタルガバナンス・コードは、DX認定の評価基準として利用される指標です。ただし、これらの制度が浸透するには時間がかかります。2020年10月にスタートしましたが、2022年4月時点で認定を受けた企業はわずか56社です。

DX認定を取得することによって企業は、以下のメリットを享受できます。

  • 企業の評判向上
  • ステークホルダーへのアピール
  • 経営リソースの獲得
  • 自社のIT部門における課題の明確化

【参考】経済産業省「「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和元年法律第67号)が施行されました」

デジタルガバナンスコードと2.0の改定内容

デジタルガバナンスコード2.0は従来のデジタルガバナンスコードを変更したわけではなく、DX推進に向けて新たな項目を加えて改訂したものとなります。主に変更されたポイントとしては下記の4つとなります。

  • デジタル⼈材の育成・確保
  • DXとSX/GXとの関係性を整理
  • 「DXレポート2.2」の議論の反映
  • DX推進ガイドライン」との統合

【参考】経済産業省「デジタルガバナンスコード改定のポイント」

デジタルガバナンスコードが求められている背景

経済産業省はデジタルガバナンス・コードが必要な理由として、以下の3点を挙げています。

  1. IT システムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描く
  2. ビジネスの持続性確保のため、IT システムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていく
  3. 必要な変革を行うため、IT 部門、DX 部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組む

一つひとつ内容をみていきましょう。

IT システムとビジネスを一体的に捉え、新たな価値創造に向けた戦略を描く

デジタル技術の導入によってどのような効果を得たいか、どのようなビジネスモデルを構築したいか、具体化する作業が重要です。AI(人工知能)・ビッグデータ・ロボットなど、デジタル技術によって特徴は異なるからです。

例えば、ロボットを導入した場合は重量物運搬や溶接作業などを一任でき、肉体労働の負担を軽減できます。一方、ビッグデータを活用した場合はユーザーの購入履歴を分析し、購買意欲の高いユーザーに限定した商品開発やマーケティング戦略を立てられます。

デジタル技術の選定を行う前に自社がどのような課題を達成したいか、社内で共有することが大切です。

ビジネスの持続性確保のため、IT システムについて技術的負債となることを防ぎ、計画的なパフォーマンス向上を図っていく

DXを推進していくために、基幹システムの刷新が求められています。老朽化した基幹システムを使い続けると、経費増大と利益損失の状態が続くからです。

生産管理・購買管理・在庫管理など、多くの機能を集約した基幹システムは業務の根幹を担っており、システム障害が起きると業務の大半が停止します。

コストや業務負担増大を回避するためには、必然的にメンテナンスの機会を増やさないといけません。また、ITスキルに優れた人材が社内に不在の場合、システム運用業務が属人化しやすく、ノウハウやデータの継承が困難になります。

必要な変革を行うため、IT 部門、DX 部門、事業部門、経営企画部門など組織横断的に取り組む

基幹システムの再構築やクラウドサービスの選定作業には、システム・経営企画・総務部門など、複数の部門から社員を選抜して専用チームを組む必要があります。

自社の課題解決に向けたシステムやツールを導入しないと、高い投資に見合った効果が得られないからです。互いの業務で抱えている課題を出し合う他、セキュリティ・予算・操作性を考慮してデジタル技術を選定する必要があります。

DX推進の課題と浸透するデジタル化

経営層のITリテラシー不足・デジタル技術導入への消極的な姿勢・ベンダー依存など、様々な理由で抜本的な改革を躊躇する企業が多く、DXは依然として進んでいません。特に中小企業におけるDXへの関心の薄さは深刻な問題です。

クラウド型の採用ツールを提供するネットオンが行った2021年の調査によると、ユーザー約300社のうち74.1%がDXを知らないと回答し、取り組みが進んでいた企業はわずか9.6%でした。

日本企業の99.7%を占める中小企業でDXへの取り組みが進まないと、企業競争力は上がらず国内経済は停滞が続きます。

一方、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、2020年以降リモートワークやペーパーレスを実施する企業が増加しました。感染拡大を抑えるためには対面接触の機会を最小限に抑える必要があり、リモートワークの普及率が高まりました。

また、請求書・見積書・発注書など、業務で使う書類をクラウドで作成できないと仕事が進まないため、ペーパーレスもセットで進める必要がありました。

社員は通勤による心身の消耗を回避でき、企業側は交通費や印刷費を削減できるなど、リモートワークとペーパーレス化は、双方にとって多数のメリットをもたらしました。

経済産業省の対応

経済産業省では、DX推進に向け、デジタルガバナンス・コードとDX認定制度を導入しました。国としてDXへ積極的に取り組んでいる企業を認定し、ブランディング確立や経営資源獲得を実現するのが目的です。

ここからは、デジタルガバナンス・コードとDX認定制度の詳細を解説します。

デジタルガバナンス・コードを構成する「4つの柱」

デジタルガバナンス・コードの柱となる要素は以下の4点です。

  • ビジョン・ビジネスモデル
  • 戦略
  • 成果と重要な成果指標
  • ガバナンスシステム

4つの柱の内容と、DX認定の判断基準を一つひとつみていきましょう。

ビジョン・ビジネスモデル

経済産業省で定義している「ビジョン・ビジネスモデル」の内容は次の通りです。

  1. ビジネスと IT システムが連動したビジネスモデルを構築
  2. デジタル技術による社会及び競争環境の変化が自社にもたらす影響を考慮
  3. 1と2を考慮した経営ビジョンの設計を行い、ステークホルダーへ公表

ビジネスモデルについては、自社と社会全体にとって価値ある仕組みづくりが求められています。言い換えると、顧客の関心を惹く新たな商品やサービスを提供し、利益につなげていく取り組みです。

例えば、ある食品メーカーでは、オンラインショッピングのニーズ向上を踏まえECサイトを立ち上げ、販売チャネルの多様化を図りました。これによって、BtoCビジネスへの参入を果たして顧客との接点を増やし、売上拡大や顧客満足度向上を実現しました。

ただし、ステークホルダーへ経営ビジョンやビジネスモデルを提示する際、必ずしも全ての情報を開示する必要はありません。不必要な混乱やトラブルを避けるためです。情報を整理し、必要な情報をわかりやすく発信する姿勢が求められます。

発信方法に関しては特に定義されておらず、個別対話・記者会見・SNSなど、様々な方法を活用して、ステークホルダーとコミュニケーションを図ることになります。また、DX認定は上記1〜3を全て達成しているかどうかが、判断基準となります。

戦略

戦略に関して、柱となる考え方は次の通りです。

  • 社会や市場ニーズの変化も考慮したビジネスモデルを実現するための方策としてデジタル技術を活用する戦略を策定
  • 企業戦略をステークホルダーに提示
  • 1の内容を反映したデジタル技術活用の戦略を公表

ポイントは「組織内整備」と「デジタル技術導入の予算配分」です。前者は現場と経営層の意識がバラバラだと、DXの推進スピードは上がりません。一方、後者は老朽化した基幹システムを使い続けると、IT予算の9割以上をメンテナンス費に掛ける結果となります(経済産業省「DXレポート」より)。

内容ごとに詳細をみていきましょう。

組織づくり・人材・企業文化に関する方策

組織や人材に関して、基本的な考えや認定基準をまとめたものが下記4点です。

  • デジタル技術を活用する戦略の推進に必要な体制の構築
  • 人材の確保・育成・外部組織との関係構築を重要な要素として認知
  • 組織設計・運営の在り方をステークホルダーに提示
  • 認定基準はデジタル技術を活用する戦略推進に必要な体制に関する事項の提示

DX推進に向けて経営層〜現場の社員が一体となって取り組める環境整備が重要です。方向性が統一されていない場合、DXが進まず、経費増大と利益損失の悪循環から抜け出すのが難しくなります。

また、自社でIT人材を育成する教育体制の整備も重要です。人手不足によって、優秀なITスキルを持つ人材の外部からの獲得が困難な状況だからです。

市場ニーズの拡大に人材供給のスピードが追い付かないと2025年には約43万人、2030年には最大79万人の人材不足が予想されています(経済産業省「DXレポート」より)。

基幹システムに精通している人材が自社にいない場合、システム障害が起きた場合に対処できません。復旧に長い時間を要し、取引先に多大な迷惑を掛ける形となります。

プラットフォーム・社外コミュニティ・セミナーを積極的に活用し、ITスキルを学べる場を設けることが重要です。さらに、待遇改善やスキルの可視化によって評価体制の透明化を図り、仕事へのモチベーションアップにつなげましょう。

ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策

ITシステムやデジタル技術の活用環境について、経済産業省が定めた考えと認定基準は次の通りです。

  • IT システム・デジタル技術活用の環境整備に向けた計画やマネジメント方法の策定
  • 利用予定の技術・サービス・投資規模の明確化
  • 認定基準はデジタル技術を活用した戦略実現に向け1と2の方策を提示

ポイントは基幹システムのクラウド化です。老朽化した基幹システムを使い続けると機能維持に必要なランニングコストが増大し、新たなデジタル技術導入やIT人材育成に割けるコストを確保できません。

また、サイバー攻撃や災害に伴う情報漏洩のリスクが高まり、システム内に保存していたデータを継承できません。

基幹システムをクラウドに移行すると、サーバー構築・アップデート・メンテナンス作業をベンダーに一任できるため、運用負担を軽減できます。

ITシステムの導入によって、部門間のデータ連携もスムーズに進み、業務効率化とミスの削減を両立できます。また、クラウドサービス・AI・IoT機器を活用し、業務負担軽減やサービスの品質向上も期待できます。

成果と重要な成果指標

デジタルガバナンス・コードにおける成果および重要な成果指標に関する、考え方と認定基準をまとめると次の通りになります。

  • デジタル技術を活用した戦略の達成度を測る指標の設置
  • 達成度を自己評価する
  • 認定基準は達成度や自己評価をステークホルダーへ開示

達成度を評価する際はKPI(重要業績評価指標)を用いて、プロセスの可視化を図ります。内容の細分化と数値化を行い、重点的に取り組まなければならない項目を明確にします。

ガバナンスシステム

ガバナンスシステムについては、主に経営層に向けた内容になります。基本的な考えは次の4つです。

  • デジタル技術導入に向け、経営層はステークホルダーへの情報発信を含めたリーダーシップの発揮が重要
  • システム部門とも連携し、自社の課題や予算を反映したデジタル技術の選択が必要
  • サイバー攻撃や外部流出への対策強化も重要
  • 取締役会はデジタル技術導入や経営ビジョンの計画に対し監督する役割がある

DX推進のための戦略・実行に向け、経営層が積極的に携わる姿勢をアピールすることが重要です。社内外のステークホルダーに安心感を与えられるからです。特に共に働く社員は経営層の取り組む姿勢を間近に見ており、経営層の本気度を敏感に察知します。

経営層がやる気を見せると会社の本気度が社員に伝わるので、コミュニケーションやリーダーシップを積極的に取ることが大切です。

デジタル技術の選択やセキュリティ対策に関しては、自社の事情に精通しているシステム担当者へ相談しておくと、トラブルが起きる可能性を最小限に抑えられます。

近年はサプライチェーン攻撃やランサムウェアなど、中小企業を狙ったサイバー攻撃も増えているため、セキュリティ対策への投資も非常に重要です。ただし、自社が抱える課題を明確化しないとミスマッチにつながるため、注意しましょう。

デジタルガバナンス・コードの「ガバナンスシステム」における認定基準は次の3点です。

  • デジタル技術を活用した経営戦略やビジネスモデル構築の内容を経営層自らがステークホルダーへ情報発信する
  • 自社が抱える課題の可視化やデジタル技術の選定作業を経営層のリーダーシップの下に実践する
  • 情報資産を守るためのセキュリティ対策強化

DX認定制度を取得するメリット

デジタルガバナンス・コードに対応した取り組みを行い、DX認定制度を取得することのメリットは大きく分けて以下の2つです。

  • ブランディングに貢献する
  • DX推進に役立つ

DXへの取り組みを積極的に実施している企業と国から認定を受けることで、企業のイメージアップにつながります。また、DX推進を進めていく過程で自社が抱える課題を可視化できます。

ブランディングに貢献する

企業ブランディングの確立によって得られるメリットは以下の4点です。

  • 社会的信用の獲得
  • 企業イメージの向上
  • 優秀な人材の獲得
  • エンゲージメント向上

国からの認定によって、優良企業のイメージを社内外に発信でき、ステークホルダーの満足度を高められます。顧客からのリピート率向上・社員の離職防止・入社希望者増加など、様々なメリットが期待できます。

DX推進に役立つ

自社の課題を特定し、ITシステムとの連携によるビジネスモデルの構築、セキュリティ強化、ステークホルダーへの情報提供などに関する改善策がデジタルガバナンス・コードに対応していることは、DX認定を取得し、最終的にはDXの達成に繋がります。

デジタルテクノロジーの効果的な適用と明確なビジョンの確立により、市場の変化に迅速に対応し、売上拡大、顧客満足度向上、リピート率の増加を実現できます。

ただし、DXを進める過程で、社員の業務負担が増加する懸念があるため、全ての課題を一度に解決しようとせず、段階的に進めることが重要です。通常業務への支障を最小限に抑えつつ、課題を一つずつ解決する姿勢が成功の鍵となります。

DX認定制度の申請方法と審査について

DX認定制度は、以下の流れに沿って申請を行います。審査機関は土日祝日を除いた実働期間60日が一つの目安です。締め日の関係で多少遅れる可能性もあるため、注意してください。

  1. 申請ガイダンスのインストール
  2. 認定申請書とチェックシートのインストール
  3. 各書類の必要項目記載
  4. GビズIDの取得
  5. DX推進ポータルへ必要書類を申請
  6. 結果発表

デジタルガバナンス・コードはDX化実現のための重要な指針

デジタルガバナンス・コードとDX制度は、DXの促進と企業のブランディング向上を目指しています。国が「積極的なDXを進める企業」として認定することで、企業は評判向上、優秀な人材の獲得、ステークホルダーとの良好な関係構築などのメリットを享受できます。

しかしながら、現在、多くの国内企業は経営陣のIT知識不足、外部ベンダーへの依存、IT人材の不足などの要因により、DXの進展に課題を抱えています。この状態が続けば、利益減少、ランニングコストの増加、セキュリティリスクの増大など、多くの悪影響が生じる可能性があります。

従って、デジタル技術を活用したビジネスモデルの構築、IT人材の育成、経営層の積極的なDXへの取り組みなど、各種課題の克服が不可欠です。デジタルガバナンス・コードへの適合策を採用し、DXの推進を図りましょう。