社内DXとは?【組織内デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質と成功要因】

社内DXとは、社内のアナログデータをデジタル化したり、デジタルツールや最新技術を活用することで、業務効率化や従業員の業務負担軽減を目指すことです。企業が抱えている課題の中にはITシステムを活用することで改善できるものも多くあり、DX化によって長年抱えていた悩みから解放された企業も少なくありません。社内DXは、多くの業務を抱える大企業において特に効果的であり、業務改善一つでも経営へ大きな影響を与えます。

しかし、現状としては多くの企業がDX推進の必要性を実感しているものの、DX化に向けた取り組みを実施できていない企業も多いです。

この記事では社内DXとは何かを確認した上で、組織内デジタルトランスフォーメーションについて必要な背景や進まない理由、成功させるポイントなどを解説します。

社内DXとは

社内DX

社内DXとは、デジタル化によってバックオフィス業務を効率性や生産性を向上させ、組織全体の体制やはたらき方を変革する取り組みを指します。具体的な例としては、経費精算や契約書管理、人事、顧客管理などの業務をAIやRPA、クラウドサービスなどを活用して効率化する取り組みが挙げられます。自動化による省人化やヒューマンエラー削減が図れるほか、データの一元管理による無駄の縮小や、業務を無人化することによる生産性向上も実現できます。

そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、組織がAIやIoT、ビッグデータなどの先端IT技術を活用してビジネスモデルや組織を変革し、競争力を獲得する取り組みを指します。この変革の範囲は社外向けのサービス・製品だけでなく、直接顧客とは関係しないバックオフィス業務にも及びます。

社内DXは企業におけるDX取り組みのうち社内に限定したものを指し、主にバックオフィス業務を変革することで、生産性の向上や効率化を目指します。

社内DXが必要となっている背景

社内DXが必要となっている背景として以下の3つのポイントが挙げられます。

  • DX推進の手始め
  • 企業の競争力の強化
  • 働き方改革

それぞれについて詳しく解説していきます。

DX推進の手始め

社内DXは社内でDXを推進するため、特定の部署や業務の一部など小規模なスタートも可能です。そのため、失敗した際の損失を抑えられる他、自社とDXとの相性なども確認できます。また自社のDX化に不安を抱えている企業であっても、小規模なスタートであればDX推進における心的ハードルも下がるでしょう。

また、小規模な社内DXの取り組みから始めれば、全社的なDXやクライアントや消費者を巻き込んだ企業やビジネスへの変革の手始めにもなるでしょう。

企業の競争力の強化

社内のDX化は企業が長期的に存続していく上で必要な取り組みです。ITが普及し、ビジネスのグローバル化が進んでいる昨今、企業間の競争は激化しています。消費者は数多くの選択肢の中から自分好みの製品やサービスを選択できる一方、企業は製品やサービスを単に提供するだけでは売上を伸ばすことが困難になりつつあると見受けられるでしょう。

企業には消費者への付加価値の提供も求められており、例えば顧客対応やスピードなどはその一例です。社内DXを実現することで業務の効率化や組織の仕組みが改善され、消費者により質の高いサービスを提供できるようになると期待できます。

働き方改革

近年、働き方改革や新型コロナウイルスの感染症対策などによって、会社員の労働環境は大きく変化しています。多くの人たちがライフワークバランスが保たれる働き方を選べるようになり、場所に縛られずに働けるリモートワークを取り入れるケースも増加しました。

企業は優秀な人材を定着させ、新たに確保するためには働く人たちのニーズに合った労働環境を提供することが求められています。社内DXを実現すれば従業員の負担が軽減される他、柔軟な働き方の実現にもつながるはずです。

社内DXが必要とされる理由

社内DXが必要とされる理由はいくつかありますが、デジタル変革により全社的なDXの足掛かりになることと、経営へ与えるインパクトが大きいことが大きな理由として挙げられます。またBCP対策になる点も、企業で社内DXが必要とされる理由のひとつです。

全社的なDXの推進

DXはビジネスモデルや組織を変革して競争力を獲得する取り組みですが、対象範囲が広く具体的な施策がイメージしにくいと感じる人もいます。社内DXがめざす業務効率化や生産性向上は、ツールの導入やアナログ作業のデジタル化など、手段や効果がイメージしやすく、手を付けやすい領域です。

全社的なDXと社内DXは異なるものではなく連続した取り組みです。まず社内DXの実践に取り組むことで、実績を積み上げ競争力を獲得した先に、顧客や取引先をも含めた全体的なDXへと発展させることが可能です。

経営への影響が大きい

社内DXによる改革は、企業規模が大きいほど経営へのインパクトは増加します。理由としては、大企業は中小企業と比較し、業務数や業務に携わる従業員数が多いため、業務プロセスの改善が経営へ影響しやすいことが挙げられます。

例えば、交通費精算業務におけるチェック作業をRPAの導入により自動化した場合、大企業であれば数万人分の作業が削減できるため、莫大な時間削減効果が生まれます。

BCP(事業継続計画)対策

業務に必要なデータをクラウド上で一元管理したり、オンライン会議システムおよびチャットツールを導入したりするなど、社内DXを推進することは、そのままBCP対策につながります。

大規模な自然災害や事故が発生した際に、事業を中断させない、または中断した場合でも早急に復旧を行うための計画をBCP対策と呼びます。浸水による装置故障や建物の破損といった目に見える被害だけでなく、出勤が困難になったことにより事業継続できなくなるケースもあり、適切な対応を取ることが必要です。

社内DXが進まない理由

社内DXが進まない理由として以下の5つの理由が挙げられます。

  • DXに関する理解不足
  • DX人材の不足
  • 社内に今後の経営戦略やDXの目的が伝わっていない
  • 経営層がDXへの取り組みに関わっていない
  • DXを推進するための体制が作れていない

それぞれについて詳しく解説していきます。

DXに関する理解不足

近年よく耳にするDXですが、そもそもDXとは何か、DXを推進する方法やそのメリットなどを詳しく理解している人は意外にも少ないのではないでしょうか。社内でDX化の重要性の理解が浸透しておらず中々導入が進まない企業や、経営層が社内のDX化に難色を示す企業もあるでしょう。

DXに関して正しく理解することでDX化の重要性に気付いたり、DXに対する不安が軽減されたりするはずです。

DX人材の不足

社会のあらゆる場所にITが導入されている昨今、IT人材のニーズが高まっています。しかし少子高齢化による労働人口の不足などにより、IT人材が不足している状況です。「2025年の崖」の要因にも、システム構築や保守運用を行うエンジニアの不足が含まれています。

そして、このデジタル技術やデータ活用などのIT技術に精通した人材をDX人材といいます。そのDX人材の不足も深刻な問題で、DXが進まない原因にもなっています。自社にDXに精通した人材が不在であったり、新しく雇い入れようと募集を出しても応募がなかったりといったケースも少なくありません。

社内に今後の経営戦略やDXの目的が伝わっていない

社内でDXを推進するには全従業員に対して、今後の経営戦略や社内のDX化の目的を説明しなければなりません。従業員の中には業務フローが変わることに不安を感じる人や、新たな手間が増えるのではと懸念を抱く人もいるでしょう。

全従業員に今後の企業方針や自社におけるDX化の目的を説明し、納得してもらう必要があります。従業員に説明せず、経営層だけでDX化を行うと、従業員からの信頼を損なう可能性もあるでしょう。

経営層がDXへの取り組みに関わっていない

社内のDX化は現場で働く従業員のみが携わるのではなく、経営層も積極的に関わらなければなりません。経営層には従業員から現状の課題をヒアリングした上で、必要な解決方法を提案し、実行することが求められます。

経営層から見て問題なく業務が行われていても、現場ではマンパワーに限界を感じていたり、問題を抱えていたりすることも多いです。

DXを推進するための体制が作れていない

自社のDX化ではDXを推進するための体制構築が不可欠です。部署によって解決したい課題が異なっていたり、従業員間でもデジタルへの感度によってDXに対する見方が異なっていたりすることは珍しくありません。社内のさまざまな意見に耳を傾け、調整した上で適切なツールやシステムの導入が求められます。

また、DX化にあたって人事異動や新しい人材の採用、研修制度の設置など、人事の面でも変更しなければならないことがあるでしょう。

社内DXの具体的な進め方

社内DXを円滑に進めるためには、プロジェクト計画の策定が必要です。計画に沿ってプロジェクトを進めることで、時間やコストのムダを省き、スムーズに進めることができます。具体的には以下のような6つのステップで計画を作成していきます。

①プロジェクトの目的を決める

はじめに「なんのために取り組むのか」「実現すればどのような効果があるのか」など、社内DXの目的を明確にします。めざす目的や目標を決定し、経営層、IT部門、業務部門で共有することで、社内DXに対して共通認識を持ち、齟齬が起きるのを防ぎます。

②取り組むプロジェクトの対象範囲を決める

社内DXを進める前に、どの部門、どの業務に影響が生じるのかを洗い出し、プロジェクトの対象範囲を決定します。これにより取り組む範囲が明確になり、不要なタスクの発生によるプロジェクトの遅延や肥大化を防ぎます

③現場の業務要求を確認する

次にスコープに対して、社内DXに対する期待や意見を収集・確認します。現場から収集した要求事項を一覧化し、要求事項の重要度に沿って優先順位を決定します。また要求事項では、すべての業務要件・システム要件を取り込む必要はありません。網羅的に一覧化できるようにすることが重要です。

④As Is/To Beの業務プロセスを書く

自社の業務プロセスや使用しているシステムに対して現状把握を行って全体像を明らかにします(As Is)。

そして現状の課題を整理したうえで、目指すべきシステムの全体像や構成、それにより業務プロセスがどう変わるかを明確にします(To Be)。

⑤ソリューション・ツールを解決できるのかを考える

前ステップでめざすべき姿と現在の状況から、両者の差分を明確にします。その上で、どのようなシステム・ツールを導入すればよいのか具体的なシステム構成をハードウェア、ソフトウェア、通信環境といったところまで検討します。

⑥どういう段取りで現場に入れていくかを考える

具体的なシステム開発の内容や、作業工程・スケジュールを決定します。社内にシステムを導入する際に、どのような段取りで現場に入れていくかも併せて検討します。

社内DXを成功させるポイント

社内DXを成功させるためには経営層と現場で取り組むなど、いくつかポイントを踏まえる必要があります。ここでは抑えるべきポイント3つを紹介します。

経営層と現場の両輪で取り組む

社内DXを成功させるためには、経営層と現場の双方を巻き込む必要があります。各部門の取り組みが欠けてもうまくいきません。経営層と現場がそれぞれの役割を果たすことが不可欠です

例えば、経営層は、システム刷新の重要性やDX人材の確保・教育コストなどの投資に対して正確に理解することが重要です。その上で、テクノロジーを活用した将来のビジョンを示すことが求められます。社内DXによりどのような効果があるのかを具体性を持って伝えることも必要です。明確に示すことにより、IT部門や業務部門はビジョンを実現するための取り組みがしやすくなります。

一方現場は、社内DXの意義や重要性を理解した上で、確実に遂行することが求められます。マネジメント層は、経営層と現場担当者との間をつなぎ、日常業務に支障がないようにしながら新たなシステム・ツールを導入できるように配慮します。

業務プロセスの整理を行う

社内DXを実施する前に、業務プロセスの整理を行いましょう。規模が大きな企業では、各部門が独立して連携がとれていない「組織のサイロ化」や、部門ごとにシステムを導入する「IT環境のサイロ化」が起こりやすくなります。サイロ化が発生してしまうと各部門間での連携が十分に行われないため、業務効率の悪化やコスト増加などの問題が発生します。

また、限られた範囲でDXを行う「スモールスタート」は、導入ハードルが低く柔軟に対応できるメリットがありますが、大企業では業務がかえって複雑化してしまう可能性もあります。

例えば、営業部門でクラウド型の契約書管理システムを、経理部門で請求書発行用のシステムを導入するといったケースがあります。各部門の業務効率化は実現しますが、全社的な視点で見るとシステム同士の連携が取れず、システム間でデータを転記する作業が新たに発生してしまい、逆に業務効率の低下を招く可能性があります。

このような問題を防ぐためには、個別最適でシステムを導入するのではなく、全体を俯瞰したうえで最適なシステムを選定します。まず全社で業務の棚卸を行い、体系的に業務プロセスを整理して課題を洗い出します。そして、明らかになった課題に対してシステム導入を検討することが重要です。

部門担当者のデジタルリテラシーを高める

社内DXを推進する際、事業部門とIT部門でのデジタル知識の違いが大きいと、十分な意思疎通が困難になることが想定されます。そこで、円滑なコミュニケーションを図るためにも各部門担当者のリテラシーを高める必要があります。

リテラシーに差がある状況下では、業務プロセスの可視化スキルやデジタル化による課題解決力を持ち、十分に活用できる人材が不可欠です。デジタル人材を育成する仕組みを持たない場合は、社内でデジタル技術に関心がある人材を選抜し、教育を行う方法があります。経済産業省が公表しているDXリテラシー標準に基づいて教育プログラムを提供するのも良い方法です。

業務部門の担当者は、技術の専門家である必要はないものの、技術の価値を理解して、技術がビジネスの課題解決にどう役立つのかを理解する力が必要です。

まとめ

経済産業省が提唱したDX推進ガイドラインは、DX導入において経営者が注視すべきポイントをまとめたものです。この背後には、レガシーシステムの継続的な使用による「2025年の崖」と呼ばれる課題が存在しています。

社内DXの推進は、効率性と生産性の向上を促すだけでなく、全組織のDX実現への第一歩としても極めて重要なプロセスです。しかし、誤った戦略により見せかけの成果に終わったり、短期的な成果を求めるあまり各部門が急いでツールを導入し、結果的に効率を損ねたり、セキュリティリスクを増大させたりするケースも見受けられます。

社内DXを着実に実現するためには、ビジョンを達成するための手段としての社内DXの位置づけを明確にし、全社員が共通の目標に向かって協力することが必要です。この記事で紹介した成功要因を踏まえ、ご自身の組織における社内DXを実現する手助けとなることでしょう。