電子帳簿保存法において保存要件のひとつであるタイムスタンプをご存知でしょうか。電子保存を検討している企業の担当者であれば、言葉は聞いたことがあるでしょう。
しかし、具体的にどういうことかわからない、実際に何をすればいいのかわからないという方も少なくありません。
電子帳簿保存法におけるタイムスタンプは、電子書類が改ざんされていないことや発行された日付に間違いがないことを証明できる技術です。電子データには、検索の利便性や保管スペースの削減など、多くの利便性があります。その一方で、紙の書類と比較して改ざんが容易であり、履歴も残らないといったデメリットもあります。
そこで、電子データを安全に、便利に活用できるように、近年はタイムスタンプという技術がさまざまな分野で利用されています。タイムスタンプが付与された時点でそのデータが確かに存在していたこと、そしてそれ以降に文書の改ざんや編集、削除などが行われていないことの二つが証明できます。
この記事では、タイムスタンプに関する基礎知識から、各法律に関連する利用法の解説のほか、タイムスタンプを導入、利用するメリットなどについて詳しく解説します。
タイムスタンプとは

タイムスタンプとは、スタンプが付与された時間に電子データが確かに存在しており、それ以降改ざんされていないことを証明する技術です。紙の文書であれば、契約者本人の署名や押印などが証拠となり法的効力を持ちます。しかし、電子データは痕跡を残さずに簡単に改ざんできてしまうため、信頼性と安全性の確保が課題でした。
電子文書特有の脆弱(ぜいじゃく)性を改善し、法的効力を持たせるには「作成された電子文書の存在が明確に示されること」「その内容が改ざんされていないこと」もしくは「改ざんがされた場合でも履歴をしっかりと残せる機能を有していること」といった要素を担保することが重要なのです。
電子契約において、安全性と信頼性を高め、「完全性」を確保するために用いられるのがタイムスタンプです。タイムスタンプによって、文書の作成者と受信者以外の信頼できる第三者機関によって存在証明、非改ざん証明が可能で、文書の信頼性が客観的に保証されます。
例えば、電子カルテにおける非改ざん証明、不動産の売買に関する電子契約、独自コンテンツや研究データにおける知的財産権の保護などを目的に、タイムスタンプが活用されています。
電子文書の作成者がタイムスタンプを付与するためには、まず時刻認証局(TSA)に発行を依頼します。具体的には、保存したい電子文書から作成したハッシュ値を、時刻認証局に送信します。ハッシュ値とは、元になるデータから一定の計算手順により求められた固定長の値のことです。
時刻認証局は送信されたハッシュ値に時刻情報を加えたタイムスタンプを文書作成者に発行します。文書作成者は電子文書とタイムスタンプを保管しておきます。文書の証明を行う際は、電子文書のハッシュ値とタイムスタンプに格納されているハッシュ値を照合し、双方のデータが一致すれば、文書に何も手が加えられていないことを証明できます。
タイムスタンプの役割
紙の契約書を作る場合、一般的には、文書が本人の意思で作られたことを担保するために署名または押印が利用され、ある時点で文書が存在していたことを担保するために確定日付印を付与してもらう方法があります。
確定日付印とは、公証役場で公証人が文書に押す日付入りの印を指します。その印があることで、印を押された日にその文書がその内容で存在したことを公的に証明することができます。
電子文書を取り交わす電子契約の場合、署名・押印や公証役場にて公証人に契約書上に確定日付を付与してもらうといった方法が使えません。その代わりに使用されるのが、タイムスタンプや電子サインといったシステムです。
タイムスタンプの法的拘束力
誤解しやすいところですが、電子契約自体はタイムスタンプや電子サインがなくても有効です。タイムスタンプや電子サインなしで作られた電子文書も民事裁判で証拠として提出できます。
ただし、タイムスタンプや電子サインがない場合、確かに本人によって作られたことや、ある時点で文書が存在し以降改ざんされていないことの証明が困難なため、証拠としての証明力は強くありません。紙の契約書で例えるなら、100円ショップなどで購入できる認印が押されただけの確定日付印もない書類のようなものです。
一方、タイムスタンプや電子サインが施された契約書は、実印が押され、公証役場にて公証人による確定日付印が付与された紙の契約書と同様に裁判でも十分に有力な証拠となりうるのです。
電子契約にタイムスタンプが必要な理由
電子契約で扱う電子ファイルにはなぜタイムスタンプが必要なのでしょうか。ここではタイムスタンプが必要となる理由を3つ解説します。
電子署名の弱点をカバーできる
電子ファイルに対して電子署名だけを付与した場合、署名者がその電子ファイルを作成したことは証明できても、いつ作成された電子ファイルなのかわかりません。これは、日付が重要となる契約行為にとって大きな問題です。
例えばファイルの作成者が悪意を持っていれば、過去の日付で契約書を作成することも可能となってしまいます。だからこそ、電子署名に加えてタイムスタンプを付与し、「誰が」「いつ」作成した「何」であるかを証明する必要があります。
電子化した契約書の有効期限を長期化できる
電子ファイルに付与する電子署名は、電子証明書によって内容を証明します。しかし、電子証明書の有効期間は最短1年で、最長でも5年間です。これを超えると電子証明書の有効性が確認できなくなり、結果的にその契約書が有効なものであるか判断できません。
しかし、タイムスタンプを付与することで、電子署名の有効期限をタイムスタンプの有効期限(最長で約10年)まで延長できます。これは電子署名の有効期限が切れても、タイムスタンプの有効期限内であれば、その有効性が確認できるためです。
電子署名の有効期限をさらに延長するには、作成時のタイムスタンプの他に、2つ目のタイムスタンプである「保管タイムスタンプ」を付与します。保管タイムスタンプを付与すると、有効期限をさらに約10年延長できます。また、保管タイムスタンプは繰り返し更新が可能なので、20年、50年といった長期保存にも対応できます。
電子帳簿保存法に対応可能となる
これまで紙文書でのみ保存が認められていた、主に国税関係の書類について、電子データでの保存を認めるようにした法律が「電子帳簿保存法」です。これにより、紙文書で保存されていた書類をスキャナで読み込み、電子データとして保存できるようになりました。
しかし、なんの工夫もなされていない電子データでは、改ざんの恐れがあります。このため電子帳簿保存法では、重要な書類に対して非改ざん性を証明するため、タイムスタンプを付与することが要件となっています。
タイムスタンプと電子サインの違い
タイムスタンプと電子サインは、どちらも電子契約の原本性を高めるためのものです。これらの違いは担保する内容にあります。
タイムスタンプ
文書がある時点で存在していたこと(存在証明)と、その時点以降改ざんされていないこと(非改ざん証明)を担保します。紙の文書の郵便記録や公証人の確定日付印にあたります。
電子サイン
文書が本人によって作られたこと(本人性)を担保します。紙の文書の署名・押印にあたります。
なお、電子サインとは、電子契約においてその電子データが本人によって作成されたことや内容に改ざんがないことを保証する仕組みの総称です。本人性を確認する方法の厳格さによって、一般的な「電子サイン」と電子証明書を使ってより厳格に本人であることを確認する「電子署名」の2種類があります。
電子文書はタイムスタンプと電子サインを付与することで、裁判で証拠として認められる力が高まります。民事裁判のルールでは、電子文書が署名・押印のある紙文書と同じように「本人の意思に基づいて作成された」との推定を受けるためには、タイムスタンプと電子サインが付与されることが重要になります。
タイムスタンプの仕組み
タイムスタンプは、時刻認証局(TSA)と呼ばれる事業者が発行します。なお、TSAは指定調査機関から認定を受けた事業者です。発行手順は、次のとおりです。
タイムスタンプの要求
利用者(企業側)は電子書類を作成し保存する際に、TSAにタイムスタンプの付与を要求します。この際「ハッシュ値」と呼ばれる特定のアルゴリズムから生成された不規則な文字列を送信します。「ハッシュ値」は電子ファイルの内容を少しでも変更すれば、あわせて変わる性質を持ちます。そのため「ハッシュ値」が変わらないことが、原本である証拠になります。
タイムスタンプトークンの発行
TSAは利用者から要求を受けると、電子書類のハッシュ値に時刻情報を付与したタイムスタンプトークンを発行します。利用者はその後電子書類を保存・使用します。タイムスタンプトークンにはカギがかけられており、利用者が変更することはできません。
タイムスタンプの検証
利用者は原本が改ざんされていないことや、日付が確かであることを確認する際にTSAからカギを受け取り、タイムスタンプトークンを確認します。原本と保存されたタイムスタンプトークンのハッシュ値が同じであれば改ざんされていないことになります。
電子文書のタイムスタンプに関する主な法律
タイムスタンプは法的効力を持つことが大きな特徴です。そのため、電子文書に関するさまざまな法律で、タイムスタンプの付与が義務付けられています。
ここからは、タイムスタンプに関わるルールを定めている法律をご紹介します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、国税関係書類を電子データとして保存する際の規定を定めた法律です。1998年7月にこの法律が制定されるまでは、帳簿書類は紙で保存することが義務付けられていましたが、法律に定められた要件を満たせば、電子データでの保存が可能になりました。
ただし、帳簿書類を電子データで保存する場合、タイムスタンプの付与が必須となります。これは、電子データを受領した人と書類をスキャンした人が同一人物であった場合、その間に改ざんが起こることを阻止するためです。
以前は、電子データの受領からスキャナ保存後、受領者が署名し、3営業日以内にタイムスタンプを付与する必要がありましたが、2022年度の法改正後は「速やかに行うこと」と変更され、最長2カ月とおおむね7営業日以内に延長されました。また、税務署の承認なしで速やかに電子化の手続きができるようになったほか、適正事務処理要件の廃止や検索要件の緩和も行われています。
e-文書法
e-文書法は、商法や税法などで、紙での保存が義務付けられた文書に対して、電子データ(電磁的記録)として保存することを認める法律です。電子帳簿保存法とe-文書法とでは、対象となる書類の種類が異なります。
電子帳簿保存法では主に、財務省と国税庁が管轄する法律に関する文書などが対象となります。一方、e-文書法では医療や保険関係、証券や建築など、会社法や商法などで規定されている、より幅広い文書が対象という違いがあります。
e-文書法は府省が管轄する所管法令によって、保存の要件が異なるため特に注意が必要です。例えば、経済産業省が定めた要件には、「見読性」「完全性」「機密性」「検索性」の四つがあります。このうち、「完全性」については、タイムスタンプを活用することで、「電子データの非改ざん」と「その時間に間違いなく存在していたこと」を証明できます。
電子署名法
電子署名法は、電子データの普及や電子取引の需要が増えたことをきっかけに施行された法律です。
原則として、申し込みと承諾があれば契約は成立し、必ずしも書面でのやりとりは必要ありません。ただし、口頭での契約締結は、トラブルが生じた際に裁判で証拠を提出できないため、書面での署名や押印のような法的効力を持つ証明を準備しておくことが重要です。
証拠力のある電子データとするためには、その文書が真正に成立したこと(本人の意思により作成されたこと)を証明する必要があります。そこで、電子文書についても、法律として「本人による電子署名が行われている」ことを要件として、当該電子文書が真正に成立したものとする、法的効力が法律によって整理されました。
なお、電子署名の特性は、該当の文書が「本人によって作成され」「改ざんが行われていない」ことを証明するものです。しかし、電子署名だけでは「いつ」署名が行われたかは証明できません。電子契約において確実性を持たせるためには、電子署名とともにタイムスタンプを付与することで、完全性の確保が可能となります。
タイムスタンプに関するその他の法律
上記以外にも、タイムスタンプの付与が関連する法律は以下のとおりです。
不正競争防止法
不正競争によって営業上の利益を侵害された、または侵害される恐れのある場合に対して、不正競争の防止と事業者間の公正な競争を確保することを定めた法律です。例えば、自社製品の盗用や特許侵害の訴え、利己的な営業秘密の漏えいなどによるトラブルは、情報が漏えいした技術や使用権などが確かに存在したことが証明できれば、民事および刑事上の措置を実施できます。この存在証明として、タイムスタンプが活用されています。
医療情報システムの安全管理に関するガイドライン
厚生労働省が策定した、医療および介護関連分野に関する情報ガイドラインです。法令によって保存義務が規定されている診療録や診療諸記録の電子媒体による保存や、医療や介護関連機関における個人情報保護のための情報システム運用管理などを含めたガイドラインが記されています。
具体的には、医療に関わる情報を扱う全ての情報システムと、それらのシステムの導入、運用から電子的な医療情報を扱う際の運用管理についての指針などが示されています。このガイドラインでは、紙の書類による医療情報のスキャン保存に際し、証拠能力としての確実性を高めるために、タイムスタンプの付与を要件の一つとして定めています。
タイムスタンプの利用方法
電子データにタイムスタンプを付与する方法として、外部システムと連携する方法があります。そこで、電子帳票システムや会計システム等を利用してタイムスタンプを付与する際の一般的な流れを紹介します。
① 事前準備
タイムスタンプの付与が可能なシステムであるか確認します。システムによっては設定の変更や、別途オプション契約が必要になることもあります。
② 書類を準備
タイムスタンプを残す書類を準備します。紙の書類に誤りがあると、後に電子データの訂正が必要となるため記載内容に誤りがないか、しっかりと確認しなければなりません。
③ スキャン
スキャナで書類をスキャンします。スマートフォンやデジタルカメラなどで撮影した電子データも使用可能ですが、画像が不鮮明にならないように注意します。
④ システムやクラウドにアップロード
スキャンした書類を利用しているシステムやクラウドにアップロードします。システムにより操作性が異なりますので導入時は比較精査したうえでシステムを選ぶといいでしょう。
⑤ タイムスタンプを付与
アップロードした書類にTSAからタイムスタンプが付与されます。タイムスタンプが付与されたことで、その書類が原本であること、その時間に確実に存在したということが証明されます。
もしも、現行で利用している電子帳票システムや会計システム等がタイムスタンプを付与できないタイプの場合、システム移行を検討してもいいでしょう。また、タイムスタンプを付与できるPDFの編集アプリケーションソフトもあります。自社の状況に応じて環境を整えていきましょう。
なお、TSAでタイムスタンプを利用する際には利用料を支払います。通常利用しているシステムを通じて支払うことになります。
タイムスタンプ利用時の注意点
タイムスタンプを利用する際に、確認しておきたい注意点を3つ紹介します。
1.タイムスタンプの付与期間
タイムスタンプの付与期間が以前よりも長くなったとはいえ、タイムスタンプの付与期間に制限が無くなったわけではありません。付与期間が長くなったことに安心してしまい、うっかり期限を過ぎてしまうことは避けなければなりません。余裕を持った業務フローを規定し、早めの対応を周知させるようにしましょう。
2.社内での原本の取り扱い
2022年1月の改正により、スキャナ保存した後はすぐに原本を破棄することが可能となりました。とはいえ、業務フローや内部統制等によりスキャナ保存後に、すぐさま破棄を認める企業ばかりではないでしょう。
まずは自社の方針を決定します。そのうえで、「社内で保管期間を設定する」「上長がデータを確認したら破棄する」「この書類はすぐに破棄可」などの規則を設定して、社員が原本の取り扱いに迷わないようにしなければなりません。
3.タイムスタンプの利用には費用がかかる
料金体系はシステムによって異なります。通常は初期費用と月額料金がかかりますが、初期費用なしで月額料金は少し高めに設定されているものもあります。また、電子帳法システム等の月額利用料にタイムスタンプの利用料が含まれているタイプと、タイムスタンプの付与ごとに料金が追加されるタイプがあります。
タイムスタンプの付与に追加料金がかかる場合は、タイムスタンプを利用する頻度により、適した料金体系が異なってくるでしょう。使う回数が多めならば定額制、使う回数が少ないのであれば従量制というように、自社に適したタイプを検討しないと、コスト高になる可能性があります。
なお、一定数までは定額制で、所定の数を超えると都度追加料金が発生するといったケースもあります。ただし、現状ではタイムスタンプを付与する回数が少なかったとしても、将来的に増える可能性もあります。今後、取引における電子データのやり取りは増えることが予測されるため、月額料金にタイムスタンプの料金が組み込まれているシステムか、定額制がよいかもしれません。
まとめ
本記事では、電子契約の中で電子帳簿保存法に対応する際に欠かせないタイムスタンプに焦点を当て解説しました。タイムスタンプは、電子帳簿保存法において不可欠な要素であり、法的な要件を満たすために必要な役割を果たします。特定のデータが特定の日時に存在したことを確認するための証拠です。タイムスタンプにより、データの改ざんや不正なアクセスを防ぎ、データの信頼性を確保できます。
タイムスタンプは信頼性のあるタイムサーバーから提供され、データにタイムスタンプを付与することで、そのデータの生成時刻を確実に記録します。これにより、後でデータの証明や証拠提出が可能になります。
また、電子帳簿保存法に適合するためには、電子データに正確なタイムスタンプを記録し、保存しなければなりません。これは法的な要求を満たし、将来の証拠提出に備えるために非常に重要です。
締めくくりとして、電子契約においてタイムスタンプは法的要件を遵守し、データの信頼性を確保する鍵となる要素であることが理解されるべきです。タイムスタンプを適切に活用することで、電子契約の合法性とセキュリティが向上し、ビジネスプロセスを円滑に進めるための重要なステップと言えるでしょう。