電子契約の署名の方法とは?【立会人型と当事者型の違いから法的効力や手順まで詳しく解説】

電子契約の署名の方法とは?【立会人型と当事者型の違いから法的効力や手順まで詳しく解説】

現在、社会はペーパーレス化とテレワークの進展により、電子契約の普及が急速に広がっています。電子契約を結ぶ際には、電子署名が不可欠であり、その方法には当事者が自身で証明して署名する「当事者型」と、クラウドを通じて行われる「立会人型」が存在します。これらの違いを理解することは、電子契約導入を検討する際に重要です。

一方で、電子署名に関する手続きや法的効力に関する不安から、導入に踏み切れないという声も少なくありません。

この記事では、電子署名の基本的な概念や当事者型と立会人型の違いに焦点を当て、具体的な電子署名の手法やその法的効力、セキュリティ、導入時の注意点などについて包括的に解説します。

電子署名とは

電子署名は、契約書などのデータに行われる署名のプロセスです。電子署名を使用することで、文書内容が改ざんされていないことや署名者が確かに本人であることが確認できます。

電子印鑑」という類似した用語が存在しますが、これらは大きく異なる機能を持っています。後述しますが、電子署名には本人確認を示す機能が備わっています。一方で、電子印鑑は印鑑を電子化したものに過ぎません。

電子文書に署名すると、本人による署名であることや文書内容の改ざんがないことを示すために、「電子証明書」と呼ばれる本人確認データが含まれる電子署名が発行されます。このため、署名や捺印を直接行わずとも、データ上で契約書を有効に締結できます。

電子署名は、信頼性の高さを確保するために「認証局」と呼ばれる第三者機関がデジタル証明書を発行する審査を通じて行われます。

電子署名の仕組み

電子署名は文書の正当性を確認するための仕組みであり、一般的には以下の4つのステップで構成されます。

文書のハッシュ値の作成

最初に、電子文書のハッシュ値を生成します。ハッシュ値は、専用のハッシュ関数を使用して電子文書を計算し、結果として得られる文字列です。言い換えれば、同じハッシュ関数を同じ電子文書に適用すると、一致するハッシュ値が生成されます。

逆に、同じハッシュ値が得られれば、元の電子文書も同一であると判断できます。これは絶対的な確実性を持つものではありませんが、わざと同じハッシュ値を持つ電子文書を生成することは極めて難しいです。そのため、電子文書の正当性を立証する際には、「同じハッシュ値=同じ元の文書」と考えることが一般的です。

ハッシュ値の暗号化・送信

鍵を使用してハッシュ値を暗号化する際には、主に公開鍵と秘密鍵の2つの鍵が重要です。

公開鍵(Public Key)

一般に公開され、誰でも利用できる鍵です。テキストや情報を暗号化するために使用されます。公開鍵で暗号化されたデータは、それを秘密鍵でのみ復号できます。

秘密鍵(Private Key)

保持者だけが知っている鍵で、一般には公開されません。データの復号や署名の生成に使用されます。公開鍵と対になっており、秘密鍵で暗号化されたデータは公開鍵でのみ復号できます。

この公開鍵と秘密鍵のペアを使用して行われる暗号化・復号のプロセスは、一般に「公開鍵暗号方式」として知られています。

電子署名においては、署名者が秘密鍵を利用してハッシュ値を暗号化し、それを電子文書に添付して特定の受信者に送信します。受信者は、対応する公開鍵を使用して署名を検証し、データの信頼性を確認することができます。

ハッシュ値の復号・比較

電子文書の受信者は、受信した文書に関連して以下の情報を得ます。

  • 電子文書本体
  • 電子文書から生成され、秘密鍵で暗号化されたハッシュ値
  • ハッシュ値を暗号化するための秘密鍵とペアになる「公開鍵」

これらの情報を使用して、受信者は次の手順を実行します。

  • 受信した電子文書からハッシュ値を生成
  • 電子文書に添付された、秘密鍵で暗号化されたハッシュ値を、それに対応する公開鍵で復号

このプロセスにより、2つのハッシュ値が一致する場合、文書の正当性が証明されます。この一致は、以下の2つの条件が同時に満たされる場合にのみ発生します。

(条件A)元となる電子文書が同一である。

(条件B)ハッシュ値を暗号化した秘密鍵が、それとペアになっている公開鍵で正しく復号できる。

この一致によって、文書の改ざんがないこと(条件A)および文書作成者が正規の作成者であること(条件B)が確認されます。(条件B)の確認には、秘密鍵の保持者が公開鍵を所持することが必要であり、これによって文書の正当性が確立されます。

電子証明書の検証

(条件A)と(条件B)が証明されても、文書の正当性を断言することができません。

仮に、XがYに電子文書を送信し、途中で第三者のZが改ざんを行い、その後ZがXになりすまして改ざんされた文書をYに送信したとします。Zは改ざん後の文書からハッシュ値を作成し、それをXの公開鍵ではない別の公開鍵で暗号化した場合、A・Bの条件は満たされても文書が不正なものであることが判明します。

しかし、もしYがXから受け取った公開鍵が実はZのものだった場合、A・Bを満たしつつも不正が成立します。このようなリスクに対処するためには、Yが自身が持つ公開鍵がXの秘密鍵と本当にペアであることを確認する必要があります。この確認を行う仕組みが公開鍵基盤です。

具体的には、Xが信頼できる第三者である認証局に電子証明書の発行を依頼すると、認証局はXの本人確認を行い、証明書を発行します。XがYに公開鍵を送る際には、その公開鍵に電子証明書を添付することで、Yは認証局を通じてXの公開鍵の正当性を確認できます。これによって、通信の安全性と送信者の正当性が確保されます。

当事者型と立会人型の違い

電子署名には、当事者型と立会人型の2つの主要な方法が存在します。

当事者型

当事者型は電子署名法に基づいており、契約当事者が電子証明書を取得し、自身の本人性を証明します。これには、認証サービスを提供する企業に対して本人性を証明する書類を提出し、電子証明書が格納されたICカードや電子ファイルを入手するプロセスが含まれます。

立会人型

立会人型の電子署名は、電子契約書(PDFなど)をクラウド上にアップし、双方が合意した後、電子契約サービス提供事業者が契約書の締結を確認し電子署名を行います。

立会人型の普及理由

当事者型は契約を締結する双方が電子証明書を取得し、都度認証サービス事業者から認証を受ける必要があるため手間や時間がかかります。このため、実際に利用されているのは立会人型が主流です。導入から契約の締結までのプロセスが簡便であり、電子契約を導入している企業の大部分が立会人型を採用しています。

立会人型は法的に有効なのか?

立会人型の電子署名は、契約の当事者本人が直接署名を行うのではなく、電子契約サービス提供事業者が立ち会って署名を行う形態です。この手法において、電子署名法の施行当初は電子証明書を使用した本人による署名が前提とされ、文書の有効性については曖昧視されていました。

しかし、政府は電子署名に関する見解を明確にし、電子証明書のない電子署名も法的に有効であると認定しました。電子署名法が2001年に施行された際は電子証明書を活用した本人の署名を想定していましたが、現実には立会人型の電子契約が一般的に普及しています。政府は「利用者の意思が明確であれば要件を満たす」との立場を公表しており、今後の訴訟においても有効性が示される見込みです。

電子署名の主な方法

電子署名を実施するための主な手法は以下の通りです。

PDF文書の電子署名

電子署名を実施するためには、PDF編集ソフトを利用することが一般的です。以下は電子署名の手順です。

  1. 「ツール」メニューから「証明書」を選択し、「電子署名」をクリックします。
  2. 「証明済み文書として保存」ダイアログボックスが表示されたら、「OK」をクリックします。
  3. カーソルが十字に変わるので、電子署名を行いたい箇所にドラッグし、署名する領域を作成します。
  4. デジタルIDを設定します。
  5. 「デジタルIDで署名」ダイアログボックスでIDを指定し、設定時のパスワードを入力します。
  6. 署名が完了したら、ファイルを保存します。

デジタルIDはユーザーが自由に設定できますが、セキュリティを考慮すると予測が難しく強固なものが望ましいです。そのため、信頼性の高い認証機関から発行されたデジタルIDを使用することが推奨されます。

なお、電子署名が可能なPDFソフトは数多く存在します。取引先や自社で使用されているPDFソフトに合わせ、適切なものを選択することが重要です。メリットとして、既にPDFリーダーを使用している場合は新たなソフトの導入が不要であり、一方で取引先と同じPDFリーダーを使用していない場合、電子署名機能が利用できない可能性がある点に留意が必要です。

【参考】PDF ファイルで電子署名を利用する方法 (Acrobat DC / Acrobat Reader DC)| Adobe

Microsoft WordやMicrosoft Excelの電子署名

契約書などの文書は一般的にPDF形式で管理されていますが、Microsoft WordやMicrosoft Excelなどのソフトウェアでも電子署名を施すことが可能です。

ただし、Microsoft WordやMicrosoft Excelで電子署名を行う場合、デジタルIDの発行プロセスを作成過程で実施できないため、必ず事前に信頼性のある認証機関からデジタルIDを取得する必要があります。

Microsoft WordやMicrosoft Excelで電子署名を行う手順は以下の通りです。

  1. 電子署名を行いたいファイルを開く。
  2. 署名を挿入したい箇所にカーソルを合わせて、挿入を選択。
  3. 「テキスト」内の「Microsoft Office 署名欄」をクリック。
  4. 「署名の設定」ダイアログボックスに必要な情報を入力。
  5. 署名欄を右クリックして「署名」を選択。
  6. キーボードやタッチペンを使用して署名を行い、そのファイルを保存する。

Microsoft WordやMicrosoft Excelは多くの企業で広く使われており、利用者も多いため、多くの企業相手に適したフォーマットで電子署名が可能です。

ただし、これらのソフトウェアは主に文書の編集を前提としており、署名を施すことに抵抗感を持つ利用者も存在しますので、適切な使用状況を検討する必要があります。

【参考】Office ファイルでデジタル署名を追加または削除する|Microsoft Office

電子契約サービスの導入

電子契約サービスは、伝統的に紙で行われていた契約書の取り決めを電子文書を通じて完結させるためのツールです。電子契約サービスの採用により、デジタルIDを別途入手する必要なく、契約書の締結を電子的な手段で素早く行うことが可能です。セキュリティ強化が手軽に行え、多くの契約書を電子上で処理したい場合には、電子契約サービスの導入が強く勧められます。

一方で、電子契約サービスの欠点として挙げられるのは、一定の費用が発生することです。月単位で送信する契約書の数によって必要な費用や提供される機能が異なるため、導入の際には慎重な検討が求められます。

電子契約サービスが採用している電子署名には、大まかに2つの方法があります。

  1. 立会人型・事業者署名型
    契約印の代わりにサービスプロバイダーが立会人としてログを記録し、事業者の署名を保証する。契約書の締結が可能。
  2. 当事者型
    電子認証局が発行する電子証明書を使用し、本人が署名したことや文書が改ざんされていないことを確認し、締結が行われる。

どちらの方法を選んでも、契約書に関連する業務の効率化が実現されます。業務の合理化を優先する方にとっては、電子契約サービスの導入を検討する価値があります。

電子署名の法的効力

電子署名に関する法的効力は、「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」に基づいて規定されており、正しく実施された場合に法的な効力を有します。

電子署名法の第二章第三条によれば、適切な電子署名が行われた電子文書は、紙に印鑑が押された契約書と同等の法的効力を有するとされています。

ただし、この法的効力が適用されるためには、電子文書が適切な電子署名によって保護されている必要があります。電子文書は紙の契約書と比較して改ざんのリスクが高いため、電子署名を行う際には「改ざんが行われていないこと」「本人が署名をしたこと」をはっきりと示し、署名時のタイムスタンプを保存しておくことが重要です。

これらの要件が満たされることで、電子文書は法的効力を有することとなります。電子文書を使用して契約書を締結する場合は、これらのポイントを遵守し、法的な要件をしっかりと確認することが必要です。

【参考】e-Gov法令検索|デジタル庁

電子署名の使用時には、特に安全性が懸念されることがあります。電子文書が不慮の事態で公に晒されると、機密情報の漏洩のリスクが生じる可能性があり、電子署名に不慣れな人々はその安全性に対して懸念を抱くことがあります。しかし、電子署名の安全性は非常に堅牢なセキュリティ対策によって確保されています。

電子署名の安全性

電子署名の安全性を確保するための主なセキュリティ対策は以下の通りです。

公開鍵暗号方式

送信者と受信者がそれぞれ異なる鍵を使用して文書の暗号化と復号を行うことで、文書の改ざんを防ぐ手法。

ハッシュ関数

文書の内容に基づいて、ファイルの中身を見た目とは無関係な数値に変換し、ファイルの中身を保護する技術。

電子認証局

署名が本人によって行われたことを証明する「電子証明書」を発行する信頼性のある第三者機関。

これらのセキュリティ対策により、文書は十分に保護されており、電子署名の安全性は高いと言えます。

電子署名の選択肢として電子契約サービスの活用がお勧め

Adobe Acrobat ReaderやExcel、Wordなどでも電子署名を行うことは可能ですが、その処理が思ったより手間がかかると感じる方が多いかもしれません。

個人が1〜2通の文書に電子署名をする場合は、Adobe Acrobat Readerなどでも十分かもしれませんが、法人として多量の電子文書に電子署名をする場合、これらの手法は非効率的です。そこでおすすめしたいのが電子契約サービスの利用です。

電子契約サービスを利用すれば、大量の電子文書に対して迅速かつ効率的に電子署名を付与できるだけでなく、以下のメリットが期待できます。

契約業務にかかるコストの削減

電子契約サービスの導入により、契約業務に関連するコストを約75%削減できる可能性があります。以下はその主な要因です。

非課税の印紙税

電子契約サービスの利用により、従来の紙媒体での契約書にかかる印紙税が非課税となります。

書面契約関連のコスト削減

契約書の作成、郵送、管理にかかる手続きや費用が大幅に削減されます。

検索・監査にかかるコストの削減

電子形式で契約書が管理されるため、文書の検索や監査に要するコストが削減されます。

国内最大手のクラウドサインサービスが提供するデータによれば、電子契約サービスの導入により、契約業務に関わる総合的なコストを約75%削減できるとされています。これは、効率的で迅速なプロセスが電子契約によって可能となり、従来の手法と比べて著しいコストメリットがあることを示唆しています。

取引のリードタイムを即日化可能

書面契約を採用する場合、契約書の作成から相手に送付、捺印後の返送までには通常3週間程度の時間がかかることが一般的です。

それに対し、立会人型の電子契約サービスを活用すると、契約のためのウェブサイトリンクをメールで送信するだけでやり取りが完結します。この効果により、契約締結までの時間を大幅に短縮でき、場合によっては即日の契約締結も可能です。

さらに、多くの電子契約サービスは以下のような機能を提供しており、これらを活用することで契約業務をより効率的に進めることができます。

契約テンプレート登録

標準的な契約書フォーマットを登録しておき、簡便かつ正確な契約書作成が可能です。

顧客別ステータス管理

各契約に関する進捗やステータスを顧客ごとに管理し、リアルタイムで把握できます。

一括送信

複数の契約書を一度に送信できるため、複数の取引先との契約業務を迅速に進めることができます。

社内ワークフロー

内部の業務プロセスを自動化し、効率的なチーム協力を促進します。

これらの機能を駆使することで、電子契約サービスは契約業務の効率化だけでなく、短いリードタイムで迅速かつ確実な契約締結を可能にします。

スマートフォンで簡単に電子署名が可能

電子契約サービスの一部はスマートフォンに対応しており、相手先の担当者と対面しながらも、提案された電子契約を手軽にスマートフォンで署名できます。これに対して、Adobe Acrobat ReaderやExcelなどを使用する場合は、電子署名までの手続きがより手間がかかり、同様なスムーズな電子署名が難しいことがあります。

原本性の担保

かつては紙媒体が最も原本性を確保できる手段でしたが、スキャナーなどの技術発展により、紙媒体の原本性の確保が難しくなりました。逆に言えば、電子署名は改ざんがないことや本人による署名であることがはっきり示されるため、紙媒体よりも高い原本性を確保し、契約書に対する信頼性を向上させることが可能です。

電子署名を行う際の注意点

電子署名を取り入れる際に留意すべき要点は以下の通りです。

テスト実施の重要性

電子署名を初めて導入する場合は、社内でのテストを欠かさず行いましょう。期限切れの電子証明書などが発生すると、文書および署名の正当性が証明できなくなり、法的効力が損なわれる可能性があります。トラブル発生のリスクが高いため、初めての使用前にしっかりとテストを行い、外部への本格的な運用を始めるべきです。

対応可能な範囲の確認

契約書の種類や相手先によっては、電子署名が利用できないケースも考えられます。契約内容や相手先のポリシーに基づき、電子署名が適用可能かどうか事前に確認しておく必要があります。

秘密鍵の厳重な管理

電子署名の有効性は、秘密鍵が文書の作成者によって確実に保持されていることに依存しています。秘密鍵が不正に漏洩すると、電子署名の安全性が損なわれるため、慎重に管理し、第三者に渡らないように留意してください。

電子証明書の慎重な扱い

電子証明書に変更が生じた場合や、秘密鍵が外部に流出した際は、迅速に電子証明書の失効手続きを行う必要があります。慎重に電子証明書を管理し、変更や漏洩時には速やかに対処できるよう心がけましょう。

まとめ

本記事では、電子署名の手法、法的効力、安全性などについて包括的に解説しました。電子署名は、ペーパーレス化やハンコ廃止による業務の効率化に寄与する重要なソリューションと言えます。特に、紙媒体の管理業務やコストが増大している状況や、業務プロセスを効率的に改善したいと考える場合は、電子署名の導入を積極的に検討してみることをお勧めします。

電子署名は、文書の改ざん防止や本人確認などを確実に行えるため、信頼性が高まります。また、スキャナーや郵送にかかる手間や時間を削減し、契約書の締結プロセスを迅速かつ効果的に進めることができます。このような利点を活かし、電子署名の導入によって企業の業務フローを効率的かつスマートに改善できるでしょう。

ペーパーレスの時代において、電子署名は現代のビジネスにおける不可欠なツールとなっています。是非、本記事を参考にして、電子署名の導入による効果を最大限に引き出してください。