働き方が多様化する現在、押印の為の出社を見直す企業も増えております。そこで注目を集めたのが電子印鑑です。
電子印鑑は契約書や請求書などで使われる他、社印としても使われます。ペーパーレス化とともに普及が進んでいますが、法的効力や印鑑証明としての有効性に問題点はないのでしょうか。
この記事では電子印鑑の仕組みや電子サインとの違い、電子印鑑を利用、導入する方法、メリット・デメリットや使用する際の注意点などについて詳しく解説していきます。
電子印鑑とは?
電子印鑑とは、印影の形を画像データにしたものです。実際の印鑑による印影をデータ化するというよりは、印影風のデータを作成したり、単純に赤丸の中に会社名や名前を入れた形の画像データを電子印鑑として使用している事も多いです。
電子的な文書へパソコンなどから捺印を行う「電子印鑑」。電子印鑑に利用する印鑑データは有料で作成するサービスもあれば、PDFやWord・Excelの機能や無料のサービスからも手軽にかんたんに作成し活用する事ができます。
電子印鑑ならリモートワークや外出先など、どこでも場所を問わずに捺印できますし、何より紙を印刷して捺印して…という作業そのものが効率化できますので、ひとつデータを保有しておくだけでもとても便利です。コロナ禍で捺印の為だけにわざわざ出社するという企業や担当も多かった事から、脱ハンコを目的に広がりを見せました。
なお、リアルな印鑑にも認印や実印など種類があるように、電子印鑑といっても、簡易に印鑑を作成したデータやリアルな印鑑をデータ化したもの、更には印鑑データにタイムスタンプなどの情報を入れたものなど様々です。
印影とは?
電子印鑑が印影の形を模した画像データであることをご紹介いたしました。では、そもそも印影とはどのように定義されるものでしょうか。
印影は、一言で言うならば、ハンコを押した際に残った「朱肉の跡(あと)」となります。なおハンコそのものは、正式には、印章といいます。よって、印章によって押された紙に残る後が印影となります。紙に押すためのハンコ(印章)の場合、印影に使用する書体について気にされる方も多いかと思いますのでいくつか印鑑書体としてご紹介いたします。
篆書体(てんしょたい)

実印や銀行印、代表者印に広く使われている書体です。文字によっては一目ではわかりにくい可読性の低い書体ですが、お札などにも押されている書体となります。
古印体(こいんたい)

文字が大きく可読性の高い書体です。筆書きのような擦れ、墨溜まりが特徴的です。認印などに使用される事が多いです。
印相体(いんそうたい)

吉相体(きっそうたい)とも言います。篆書体をベースに比較的新しく作成された書体となります。可読性が極めて低い書体となります。
隷書体(れいしょたい)

横長にバランスの取れた書体で可読性も高いです。可読性が高いため様々な場面で見かける書体です。印鑑としては認印に使われる事が多いです。
楷書体(かいしょたい)

最も読みやすい書体と言えます。文字を崩すことなく丁寧に表現する形となります。可読性は極めて高く、特徴もあまりない書体である為、実印や銀行印には不向きです。
行書体(ぎょうしょたい)

楷書体を筆で崩したように描くのが行書体です。こちらも可読性は高く、特徴は少ない書体ですので、認印に使われるケースが多いです。
電子印鑑の法的な効力
電子印鑑は、デジタルのハンコです。朱肉やインクを使って捺印するわけではありませんが、法的効力はあるのでしょうか。電子印鑑に法的効力があるかどうかは、電子証明書の有無で変わります。
実際に電子印鑑を利用する際に気になるのが法的効力です。書面への捺印と同じような法的効力は認められるのでしょうか?
結論から申し上げますと、電子印鑑は一定の条件を満たすことで法的効力を得ることができます。
「一定の条件」として重要なのが「電子署名」であり、電子署名法という法律にて定められております。
印影のみの場合
電子印鑑には、実物の印鑑で押したものをスキャンして画像化したものや、アプリや無料サービスを利用して作成したものがありますが、作成できるのは印影のみです。
簡単に作れる一方で複製しやすいため、印鑑が本来持つ「本人性の証明」としての効力があるとは言い難いでしょう。
印影に電子証明書が付されている場合
一方、電子証明書が付いた有効な電子署名がある電子印鑑であれば、公文書や重要な契約書、社印などにも使用でき、訴訟の際も有力な証拠になり得ます。電子署名は検証プログラムによって、押印日時や本人確認ができる仕組みになっています。
2001年施行の電子署名法第三条では「当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定められています。
普通の印鑑との法的効力の違い
普通の印鑑は、民訴法第228条第4項「私文書は、本人[中略]の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」という規定に基づき、押印されている書類は本人が作成したと推定する要素になり得ます。
電子印鑑に関しても、「電子署名及び認証業務に関する法律」において、電子証明書(電子署名)付きであれば、普通の印鑑と同じく「真正に成立したものと推定する。」とされているため、法的効力や有効性を持ち、普通の印鑑と同じように使用できます。
公文書や社印としての使用できるだけでなく、電子印鑑が押された書類を印刷しても、普通の印鑑と同じように扱える仕組みになっています。
電子サインとの法的効力の違い
電子印鑑の他に、電子サインという言葉を耳にしたことがあるかもしれません。電子サインも「デジタル署名」「デジタルサイン」と並んで、電子証明書(電子署名)付きで用いられています。電子サインも「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」によって、法的効力や有効性が認められています。
また、現在紙媒体で手続きを行っている公文書も、「e-Gov」などで電子申請の手続きを行えば、自宅や会社のパソコンから電子サインによって行政手続きが可能になるものがあります。
ただし、電子サインはメールやSNSで認証を行い、電子契約を結ぶ仕組みです。一方で電子署名は、国が定めた第三者機関である電子認証局が発行する電子証明書に基づいて本人性が確認されるため、電子署名のほうがより高いセキュリティレベルと法的拘束力を持ちます。
電子印鑑の法的効力を保障する電子署名法
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)では以下のように定められております。
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
【参考】電子署名及び認証業務に関する法律
よって法的な効力について、真正に成立したものと推定させる為には、本人による電子署名が必用、とされております。言い換えれば、本人による電子署名がされた電子文書であれば真正に成立させること、すなわち法的効力を得ることが可能です。
では「実印」と同様に法的な効力を得る「本人による電子署名」とはどのようなものでしょうか。
実印として有効にする方法
電子署名というと、書面へのサインや署名のようなものをイメージしてしまうかもしれませんが、電子署名とは実は暗号化処理のひとつです。
公開鍵暗号方式という暗号処理により、誰が暗号化した電子文書であるかを証明できる性質がございます。
その証明に必要なのが電子証明書となり、第三者機関である認証局によって発行される証明書です。
いわゆる実印の印鑑証明、と同じような仕組みを電子上で行っております。
この本人性を証明できる電子署名が施されている場合、実印と同等に有効な法的効力を得ることができます。
但し、電子署名法ではより詳細に要件を定義しておりますので、電子署名の他、タイムスタンプの有効性などすべての要件を満たすためには、電子契約Great Signのような法的効力を兼ね備えたクラウドサービスを利用される事をお勧めいたします。
電子印鑑を使用する際のメリット・デメリット
手軽で便利な電子印鑑。利用する場面や利用の仕方によってはメリットも多くございます。また逆に正しく使えていなかったりリスクヘッジができていなければデメリットとなる場面もございます。
電子印鑑を使用する上でのメリットとデメリットをご紹介いたします。事例として、社内稟議書のフローにおいて、紙へ押印するフローの場合と電子印鑑によるフローの場合を比較してみます。
電子印鑑を使用するメリット
場所を問わずに押印することができる
大きなメリットはやはり押印する場所を問わない、という点があげられます。
特にコロナ禍においては在宅での勤務やテレワークを実施する企業も増えておりました。
押印の為だけに出社するといった事がなくなる点が電子印鑑を利用するメリットのひとつです。
紙で印刷して書類を回覧するときよりも作業を効率化できる
また紙の書類で回覧をする場合は、印刷して押印者の元へ順番に巡っていくといった業務工程が必要であったりしました。
電子印鑑であれば、メールなどの電磁的な方法ですぐに次の方へ回覧をまわす事ができますので作業を効率化することができます。
郵送代や紙代、インク代のコストが削減できる
そして、コスト面でも大きなメリットがございます。
紙を印刷する際には印刷代や紙代、そしてインク代などの諸経費が必要となります。
また次の押印者へ郵送をする際には郵送代も必要となります。
電子印鑑であればこれらの経費を削減する事ができますのでコスト削減にもつながります。
その他、保管や管理の面でもメリットがございます。電子印鑑により決裁された書類を共有のクラウド上のフォルダへ保管するなど保管場所が不要になり検索もしやすくなりますし、保管にかかるコストも不要となります。
電子印鑑を使用するデメリット
手軽でメリットも多くある電子印鑑ですが、正しく使えていなければデメリットもございます。
印鑑を押印した書類が悪用されるおそれがある
簡易に印鑑をデータ化した印影の場合は、例え社内であったとしても、容易に複製されたデータを流出させたり改ざんしたデータとして悪用される恐れもございます。その為、利用する際には管理面や運用面で予め整備しておく必要はございます。
また実印のデータなどは電子印鑑には使用しないなど、流出・悪用されないよう運用する事が大切です。
電子印鑑を手配するのに手間がかかる
電子印鑑そのものをどのように用意、手配するのか、という点も課題としてあります。無料で自前で作成したり用意する事も可能ですが手間はかかります。有料の電子印鑑作成サービスなどもございますが、後述します利用シーンや役割を考えますとコストをかけてまで導入するかは悩ましいところです。
電子印鑑の利用シーン
以上の事から電子印鑑を利用するおすすめのシーンとしましては、場所を問わず手軽に業務を効率化するという観点に特化して、社内のワークフロー上の書類の電子化や回覧書類への押印する場合等があげられます。
電子契約の導入や代替として電子印鑑を利用するという考えもあるかもしれませんが、法的な効力を高めるという点においても、電子契約そのものを導入・利用してしまう方がセキュリティ面も含めておすすめです。
Excelで作成した書類を印刷して、申請者と上長と決裁者の捺印をして申請しているというようなフロー等においては、Excelに電子印鑑で捺印をして電子上で申請行為をするといった、電子印鑑の利用をおすすめできます。
無料の電子印鑑を使用する際の注意点
実際に電子印鑑を利用する、という場合の注意点もあげさせていただきます。
繰り返しになりますが、複製が容易で悪用されるリスクを考えますと、セキュリティ対策や社内での運用については事前に検討・準備をしておく必要がございます。特に印鑑のデータをそのままスキャンしておいた印影は、簡単に複製され悪用される危険性が高いです。
また一方で、契約行為などへ利用をしたい、という場合においては、改ざんされていない事を証明する為に電子署名やタイムスタンプが必要となって参りますし、相手先にも同様に電子印鑑を登録いただく必要もでて参ります。
よって利用シーンを決めておくという事と、利用するにあたってのセキュリティ面の対策が電子印鑑を利用する上での注意点となります。
電子印鑑を使用する際の注意点
ペーパーレス化が進む中で電子印鑑の必要性が高まっていますが、使用する際の注意点や問題点もあります。ポイントは、電子印鑑の有効性を確保できているかどうかです。
取引先が電子印鑑を認めてくれるか
電子印鑑を使用する際の注意点としてまず挙げられるのは、契約を締結する取引先が電子印鑑を認めてくれるかどうかです。電子印鑑は便利ですが「大切な契約書は紙で」という企業も多いため、電子文書での契約が可能かどうか確認しておきましょう。また、電子印鑑を使用する際に、どの程度のセキュリティレベルが必要になるかも併せて確認しておきましょう。
電子印鑑の管理
電子印鑑はデジタルであるため、印影だけの電子印鑑は複製が容易であり、セキュリティが高いとはいえません。電子証明書付きの電子印鑑であれば本人であることを確認でき、公文書でも使用できることがあるほど法的効力が高まります。電子証明書のパスワードを忘れたり盗まれたりしないよう、しっかり管理しましょう。
電子印鑑を使い分ける
電子印鑑には印影を画像化しただけのものや、エクセルやパワーポイントを使用して作ったもの、デジタルハンコサービス等を利用して作ったものもあり、電子証明書(電子署名)の有無もさまざまです。印影のみの簡易な電子印鑑でも問題ないケースもあるため、重要な契約で使う電子印鑑と、簡易的に使うものを使い分けるという方法もあります。
まとめ
電子印鑑はデジタル上のハンコであり、印影のみのものと電子証明書(電子署名)付きのものがあります。前者は手軽ですが、複製が容易でセキュリティが低いため、重要な契約や公文書に使用する場合は、電子証明書(電子署名)付きの電子印鑑が必要になります。電子署名との違いやメリット、デメリットを抑えたうえで適切な利用シーンでご活用いただくのがおすすめです。
手軽で便利な一方でデメリットやリスクもございますので注意した上で社内のワークフローなど利用する業務を検討いただければと思います。コロナ禍で加速するリモートワーク、働き方の多様化、その中で果たす電子印鑑の役割は大きいですし便利ではあると考えます。
電子契約と使い分けて導入し自社にあった運用やフローを最適化する必要がある。取引先が電子文書や電子印鑑に対応しているかどうかを確認し、必要なセキュリティレベルもチェックしましょう。
取引や契約に合った電子印鑑を使い分けて、業務効率化を進めましょう。