近年、電子署名の需要が急速に増加しており、多くの企業が積極的に採用しています。電子契約は書面ではなく電子文書に署名し、契約を締結する方法です。電子契約には、契約当事者が電子署名する「当事者型」と、契約者以外の第三者が電子署名する「立会人型」の2つの主要な方法が存在します。これらはそれぞれ異なる特徴やメリット・デメリットを持っており、適切な選択が求められます。
この記事では、当事者型と立会人型の違いやどちらを選ぶべきか分からない方に向けて、電子契約の概要と当事者型と立会人型の違いについて分かりやすく解説します。併せてメリットとデメリットなども解説しておりますので最後までご覧ください。
電子契約とは何にか?
まず、電子契約の概要から説明しましょう。
電子契約は、伝統的な紙の契約書に代わり、電子文書を用いた契約方法です。通常、この契約はオンライン環境で電子署名されます。
電子契約の有効性は、電子署名法で規定されている条件を満たす電子文書に適用されます。これらの条件は以下の2つです。
- 作成者の本人性が確認できること
- 文書が改ざんされていないことが確認できること
法的に有効な電子文書は、改ざんの履歴がなく、電子署名をした者が明確に証明できなければなりません。本人性と非改ざん性の確認には、電子署名の有効性を保証する電子証明書と、契約書の作成と署名が正確に記録されるタイムスタンプが使われます。
近年、リモートワークの増加やペーパーレスのトレンドにより、電子契約の需要が急増しています。電子契約は、印紙税などの紙ベースの契約書に伴う手続きや費用を削減し、業務効率を向上させるため、多くの企業で採用されています。
電子契約にかかわる法律
主要な電子契約に関連する法律は、以下の2つがあります。
電子署名法
電子署名法は、電子文書における電子署名の法的効力を規定した法律です。正式には「電子署名及び認証業務に関する法律」と呼ばれています。この法律は、電子署名が紙文書の署名や押印と同等の法的効力を持つことを確立しています。電子署名法は、電子契約において、本人性(電子署名を本人が行ったことの証明)と非改ざん性(文書が改ざんされていないことの証明)の要件を定めています。電子契約サービスを使用する場合、この法律の要件を確実に満たす必要があります。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、国税関連の書類(請求書、領収書、契約書など)を電子データとして保存できるようにする法律です。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」となります。この法律は、国税関連書類を電子データとして保管する企業に関連しており、2022年1月の法改正により、電子データの保存要件が緩和されました。そのため、多くの企業が紙の代わりに電子データとして文書を保存するようになっています。
これらの法律は電子契約と電子文書の法的取り決めに関する重要な枠組みを提供しており、電子契約の普及に貢献しています。
当事者型とは
当事者型の電子署名は、契約締結において当事者自身が電子署名を行う仕組みです。例えば、X社とY社が契約を締結する場合、それぞれの代表者や権限を持つ者が自身の電子署名を付与することになります。
この方式を採用する際には、認証サービス提供業者に対して、本人であることを確認できる書類を提出し、電子証明書を取得する必要があります。この電子証明書は、電子ファイルに格納され、契約や文書に電子署名を行うための鍵となります。
この仕組みは、例えばマイナンバーカードに搭載されている「署名用電子証明書」と似たもので、確定申告などで使用経験がある方もいるでしょう。海外では、電子署名のための電子証明書をICチップに組み込み、無料で提供する事例も増えており、日本国内でも普及が進む可能性がある仕組みです。
当事者型と立会人型の違いは?
前述の通り、電子契約には立会人型と当事者型という2つの主要な電子署名方法が存在します。どちらも法的効力を持つ契約を締結できますが、それぞれの契約プロセスや本人確認の厳密さが異なります。したがって、具体的な契約に対してどちらの方式が最適かを検討することが大切です。
以下で、当事者型と立会人型の違いについて詳しく説明します。
電子契約において、当事者型と立会人型という2つの主要な電子署名方法が存在します。当事者型は、契約を行う当事者それぞれが電子署名を付与する方法であり、本人性の確認がより厳格です。一方、立会人型は契約を提供するサービス事業者が署名者に電子署名を付与する方法で、本人性の担保がやや弱い傾向があります。
電子証明書は、オンラインでの取引や契約において利用される身分証明書です。当事者型署名では契約者本人の電子証明書を使用するため、本人性の確認が厳格であり、免許証やパスポートなどの身分証明書の発行と同様に、手続きには手間とコストがかかります。したがって、当事者型署名を用いるためには事前の準備が必要です。
一方、立会人型署名の電子契約は、契約締結までのプロセスがスピーディで手軽ですが、本人性の担保がやや弱い傾向があります。具体的な契約の性質に応じて、どちらの方式を選択するかを検討することが重要です。
当事者型のメリット・デメリットは?
まず、当事者型のメリットとデメリットについて説明します。
メリット
高いセキュリティ
当事者型の最大のメリットは、高いセキュリティを提供できることです。当事者型では、電子証明書が使用され、本人確認の信頼性が向上します。電子証明書は、信頼性の高い認証局によって発行され、本人の確認が厳格に行われます。このため、契約当事者の本人性を確実に担保でき、なりすましや詐欺行為のリスクが低減します。
証拠力の確立
当事者型は電子証明書を使用するため、契約の証拠力が高まります。契約書に本人確認済みの電子署名が付いていることは、契約の信頼性を向上させ、法的な紛争時に有利に働きます。
デメリット
手間とコスト
当事者型のデメリットは、手間とコストがかかることです。契約当事者はそれぞれ電子証明書を取得し、保有・更新する必要があります。電子証明書の取得には手続きが伴い、一定の費用がかかります。また、電子証明書には有効期限があるため、定期的な更新が必要です。さらに、契約当事者同士が同じ電子契約サービスを利用する必要もあり、相互運用性に関する調整が必要です。
結論として、当事者型は高いセキュリティと証拠力を提供しますが、手間やコストがかかる傾向があります。契約の性質や信頼関係に合わせて、最適な電子署名方法を選択することが重要です。
立会人型のメリット・デメリットは?
立会人型には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。
メリット
導入コストの低さ
立会人型電子署名のメリットの1つは、導入コストの低さです。契約当事者は、メールアドレスと電子契約サービスを用意するだけで済みます。取引先にはメールアドレスがあれば事足ります。従って、追加の費用や複雑な手続きは必要ありません。
導入の敷居の低さ
立会人型電子署名は、導入の敷居が低いため、取引先に負担をかけずに契約を締結できます。取引先がメールを受信できる環境が整っていれば、非対面で契約を行うことが容易です。この点が、立会人型電子署名の大きな利点の一つと言えます。
デメリット
セキュリティの懸念
立会人型電子署名のデメリットは、セキュリティの懸念が残る点です。契約締結がメール認証のみで行われるため、なりすましや不正アクセスのリスクが存在します。取引先のメールアカウントが侵害された場合、不正な契約締結の可能性が考えられます。セキュリティ対策を強化し、二段階認証などのセキュリティ対策を採用することが重要です。
このように、立会人型電子署名には導入コストの低さと導入の敷居の低さという明確なメリットがありますが、セキュリティに関する懸念も念頭に置く必要があります。取引の性質やリスクに合わせて、適切な電子署名方式を選択することが重要です。
電子証明書だけでは信頼できない電子署名の真正性
電子契約の真正性を確保するためには、電子証明書だけに依存することは信頼性に欠ける場合があります。
当事者署名型の電子契約サービスは、電子証明書を所持する者がその契約に署名していることを証明します。通常、電子証明書の発行には信頼性の高い第三者が本人確認を行います。そのため、事業者署名型よりも信頼性が高いと思われがちです。
しかし、実際には電子証明書が真正性を保証するものではないケースも存在します。電子証明書を取得した者が本人であることを確認する過程で不正が行われたり、電子証明書を不正に入手した場合など、信頼性に疑念が生じる事例があります。
したがって、電子契約において真正性を確保するためには、電子証明書だけでなく、他のセキュリティ対策や適切なプロトコルを組み合わせて利用することが重要です。
電子署名と認証業務の関係性
「電子署名法」という名前から、電子署名と認証業務は緊密に結びついているように考えられるかもしれません。しかし、実際には電子署名の要件は極めて簡単で、認証業務による認証は必須ではありません。電子署名法の規定に従った認証業務の使用は、電子署名の有効性とは無関係であり、電子文書の真正性の確認にも関係ありません。
これまでの議論から分かるように、電子署名法と認証業務についての理解は誤解に基づいていました。電子証明書の名義が当事者本人である当事者署名型は、第三者による証明があるために信頼性が高いと思われがちです。しかし、再検討すると、実際にはそれが当てはまらないことが明らかになりました。
契約当事者名義の電子証明書の信頼度
電子証明書は通常、身元確認のプロセスを経て発行されます。このため、多くの人々は電子証明書を信頼性の高いものと見なしています。しかし、実際には電子証明書の発行方法にはさまざまなバリエーションが存在し、その信頼性も異なります。一部の電子証明書は、電話による確認など、簡単に取得できる手続きを提供しており、これらはしばしば「オレオレ証明書」と呼ばれています。さらに、自己署名によって発行される電子証明書も存在します。驚くことに、これらの電子証明書は当事者署名型のサービスとして市場で広く使用されています。
もし電子証明書が悪用されたりなりすましが発生した場合、認証局は責任を負いません。信頼性の高い電子証明書と思われているものであっても、実際には認証局の責任が及ばないのです。
加えて、認証局が徹底的な身元確認を行ったとしても、電子署名のプロセスでの本人確認は100%保証されません。実印が盗用・冒用されることがあるように、電子署名にもそのリスクは存在します。信頼できる電子証明書は、認証局が信頼性の高いプロセスを実行して取得したものに限られます。
「当事者型」 と 「立会人型」を比較することは適切ではない
まとめると、電子契約においては、当事者型と立会人型の対立に過度に固執するのは適切ではないことが分かります。どちらも電子署名の信頼性に大きな差はなく、電子署名法で定められた条件を満たしていれば法的に有効です。
電子証明書が当事者本人名義であることだけが信頼性の指標ではなく、電子契約の信頼性は他の要素にも依存します。電子契約サービスは主に契約締結の手続きを容易にするものであり、身元確認を提供するプラットフォームではありません。電子署名の有効性は法的条件を満たすことに依存し、電子契約がまだ一般的に受け入れられていない現在、信頼の確立には時間がかかるかもしれません。
まとめ
電子契約には、当事者型であろうと立会人型であろうと、電子署名を実施するのは利用者自身です。ですが、当事者署名型の使用が確実に本人による電子署名を証明するものではないことを考えると、電子契約サービスの選択はどのように行えばよいのでしょうか。
政府の2条Q&Aによれば、契約の性質や利用者の必要な本人確認のレベルに応じて、適切なサービスを選択することを勧めています。これは当然のアドバイスでしょう。しかし、電子契約サービスの選択は部品の組み合わせだけでなく、締結プロセス全体を考慮して行うべきであると私たちは考えます。
紙の契約書でも、実印の場合、なりすましや盗用のリスクがある反面、実印が使用されているからといって、常に真正な成立が確約されているわけではありません。認印を使用している場合でも、適切な交渉履歴が残っていたり、契約締結時には身分証明書が提示されていれば、真正な成立が確認されるでしょう。実印と認印による確実性やリスクの差はそれほど大きくありません。同様に、電子契約でも、さまざまな方法で真正な成立を確保できるはずです。
電子契約を導入する際には、それぞれのタイプの利点と欠点を理解することが重要です。どちらを選ぶかを検討するとき、両方を活用できるハイブリッドタイプのサービスを選択することも検討すべきです。自社が求める要件や必要な機能、使い勝手、サポート体制など、明確にするべき基準を設定し、複数のサービスを比較検討してください。