電子印鑑は安全?【電子印鑑の安全性とセキュリティ上の懸念】

様々な業界でデジタル化が進むにつれ、書類の電子化も進み「電子印鑑」という言葉を耳にする場面が増えてきました。しかし、電子印鑑は安全に利用できるものなのでしょうか。実際に紙に押印する印鑑であれば、自身で厳重に管理していれば安心ですが、電子印鑑の場合だと、そうはいきません。

電子印鑑の場合では作成方法によって安全性が大きく変わってきます。たとえば、印影の画像データであれば、改ざんは容易におこなえます。しかし、改ざんの防止のためにタイムスタンプを付与したり、本人性の担保として電子署名を使えば、容易な改ざんはできません。上記のように、正しいセキュリティ対策を施した電子印鑑は実印と同様の法的効力が認められます。

この記事では、電子印鑑の安全性とセキュリティ上の懸念や安全に使うための対策を解説します。

電子印鑑とは

電子印鑑とはデータ化された印鑑です。PDFファイルをはじめとするパソコンの電子ファイルに押印できます。この章では、電子印鑑と普通の印鑑の違いについて、法的効力のポイントを交えて解説します。

普通の印鑑との違い

銀行や契約書の締結などで用いられる普通の印鑑には、法的な効力があります。しかし電子印鑑は、一般的な印鑑でいう「認印」程度の効力にとどまります。電子印鑑は電子データを介して誰でも簡単に押印可能です。「押印した者が誰か」が明らかではないと、実印としては使用できません。

ただし、電子印鑑と普通の印鑑との法的効力は、電子印鑑にどのような機能があるのかによって異なります。電子印鑑の種類に関しては、後で詳しく解説します。

電子印鑑の法的効力

電子印鑑で押印した書類であっても、法的効力をもつ場合があります。例えば電子サインや電子署名のようなメール認証や電子証明書などを、電子データに添付して画像化したものです。

また、2005年に「e-文書法」が施行され、今までは紙での保存が義務付けられていた法定保存文書や契約書などが、電子化されていても法的効力のある文書として認められました。

電子印鑑の役割

電子印鑑は印影の画像をデータとして作成したものであり、通常の印鑑と同様の役割を果たします。様々な作成方法があり、簡易的なサインとして使用できる認印としての電子印鑑であれば無料で作成することも可能です。インターネットを経由した契約の際にはもちろん、取引先からメールで書類が送付された際にも電子印鑑が活躍します。

ですが「実物の印鑑は重要性が高い」「電子印鑑は信用ならない」といった固定観念がある方も少なくありません。こうしたイメージの悪さが、電子印鑑がいまだに普及していない背景の1つだといえるでしょう。

実のところ、押印を義務付けられている取引や契約はほとんどありません。本来は印鑑がなくてもビジネスは成立します。しかし、日本の「ハンコ文化」と呼ばれる慣習から、印鑑は現在も事実上の証拠能力を保ち続けています。

電子印鑑はWeb上で使用できる印鑑データ

電子印鑑とはWeb上で使用できる印鑑のデータのことで、PDFなどのデジタルデータに押印できる仕組みです。電子印鑑の活用により、ペーパーレス化や業務の効率化などが実現できます。

また、電子契約にも活用できるため、契約締結までの時間や、郵送代などのコスト削減も大きなメリットです。なお、電子印鑑は作成方法や使い方によっては、通常の印鑑と同様の法的効力も電子署名法第2条や3条を根拠として認められています。

【参考】電子署名及び認証業務に関する法律|e-Gov法令検索

電子印鑑の種類

電子印鑑と一言でいっても作成方法は複数あり、それぞれセキュリティリスクが異なる点が特徴です。たとえば、印影をスキャンしただけの画像データや、WordやExcelなどで作成した電子印鑑は容易に複製できてしまいます。そのため、第三者がなりすまして電子印鑑を使うリスクが高くなります。

一方、有料の電子印鑑サービスの中には、印鑑データに電子署名やタイムスタンプを付与できるものもあります。これらの仕組みを活用すれば、電子文書の非改ざん性や本人性の担保につながるため、安全性を高めた運用が可能となります。

電子印鑑には、異なる性質を持つ2つの種類が存在します。

  • 印影の画像をデータ化しただけの電子印鑑
  • 識別情報が付与できる電子印鑑

1つ目は、実物の印影画像を取り込んだり無料のツールやアプリなどを使用したりして作成した電子印鑑です。一般的に、電子印鑑というと画像をデータ化しただけのものをイメージする方が多いと思います。

印影の画像をデータ化しただけの電子印鑑は、フリーツールなどを使用して作成できる手軽さが魅力です。社内で取り扱う重要性の低い文書や、簡易的な受領印など、実物の印鑑でいうところの認印やシャチハタと同等の役割を果たす電子印鑑です。

一方、識別情報が付与された電子印鑑は、有料ツールや電子契約サービスを介して提供されます。料金が発生する代わりに、無料で作成できるものにはない機能や法的効力がある電子印鑑です。無料で作成できる電子印鑑と比べ信頼性が高く、セキュリティ対策も万全に施されています。

印影を画像化した電子印鑑の種類

印影を画像化した電子印鑑には豊富な種類があり、簡単に作れます。ここでは、代表的な種類を解説します。

Adobe Acrobat Readerで作成した電子印鑑

Adobe Acrobat Readerとは、Adobe Systemsが無償で配布している、PDFファイルの表示や印刷のためのソフトウェアです。スタンプ機能を使用すれば、電子印鑑を簡単に作成できます。自作の印鑑だけでなく、すでに登録されている日付印・検印・ネーム印や、承認済・極秘などの豊富なフォーマットが登録されており、手軽に作成ができます。

印影をスキャナで取り込み画像化した電子印鑑

紙に押印した印影をスマートフォンやデジタルカメラで撮影し、スキャナで取り込んだ画像データをJPEGやPNGなどのファイル形式で保存します。スキャナで保存した印影の画像は、そのままエクセルやワードに貼り付けて電子印鑑として利用可能です。背景の透過処理ができる画像編集ツールがある場合は、印影の背景を透明にすると扱いやすくなります。

エクセルやワードで作成した電子印鑑

エクセルやワードの図形やテキストボックスなどを組み合わせ、印影のようにデザインする電子印鑑です。テキストや図形の色を赤や朱色にすると、印鑑らしい雰囲気がでます。高度なスキルは不要なため、誰でも簡単に作成して電子印鑑の利用ができます。ワードやエクセルを日常的に操作する人にとっては、手っ取り早い手段です。

画像編集ソフトで作成した電子印鑑

Adobe IllustratorやPhotoshopなどの画像編集ソフトを用い、電子印鑑のデザインを利用する方法です。電子印鑑に特化した画像編集ソフトは、費用がかかるものから無料のものまで、豊富な種類があります。エクセルやワードと連携できるものや、複数の画像編集サービスを組み合わせれば、思いどおりのデザイン作成が可能です。

電子印鑑の導入によるメリット

電子印鑑を用いてビジネスをデジタル化すると、次のようなメリットを得られます。

  • すぐに押印できる
  • どこにいても押印できる
  • 紙や押印にかかる消耗品費が削減できる
  • スピーディーなやり取りができる
  • 印鑑や書類の劣化・紛失防止

電子印鑑・デジタル化で得られるメリットについて、詳しくみていきましょう。

すぐに押印できる

電子印鑑があれば、押印にかかる一連の流れの大部分を省略できます。実物の印鑑でデジタル化した書類に押印する場合には、まずデータを紙に出力してから押印し、再度パソコンに取り込む作業を行う作業が必要でした。

電子印鑑ならデジタル書類に直接押印できるため、ワンクリックで完了です。実物の印鑑とは違い、押し間違えや判別できないほどかすれることもありません。

どこにいても押印できる

電子印鑑は、押印の場所を問いません。わざわざ出社せずとも、インターネットに接続できる環境さえあれば押印が可能です。リモートワークやテレワークの必要性が高まっている現代において、電子印鑑などのデジタルツールは業務を滞りなく行う手段として有効なツールだといえます。

紙や押印にかかる消耗品費が削減できる

デジタル書類への押印に電子印鑑を用いると、印刷に必要な紙代・インクトナー代などの経費を抑えられます。押印する際に必要な朱肉や、出力した書類を保存するファイルやバインダー、ラベルなども不要です。

また、書類を郵送しなくてよくなるため、切手代や郵便代も削減できます。さらに、デジタル書類には印紙税が課せられないため、節税対策の面でも電子印鑑導入のメリットがあるでしょう。

スピーディーなやり取りができる

デジタル上で書類の送受信ができると、紙のみの場合と比べやり取りが格段にスピードアップします。紙の書類でのやり取りだと、相手先から書類が届くのを待ち、押印したあと封筒に入れ返送するという流れです。手続き完了までにかかる時間は、少なくとも2~3日ほどかかります。遠方への郵送や、遅延・配送ミスなどのトラブルが生じるとさらに日数を要するでしょう。さらに、災害発生の前後は配送自体がストップすることもありえます。

電子印鑑を導入してデジタル上ですべて完結させると、こうした配送問題をすべて解決可能です。送信はワンクリックで済み、相手先が受信するまでにほんの数秒しかかかりません。朱肉を準備して押印したり、書類を封入したりといった雑務も省けます。

印鑑や書類の劣化・紛失防止

電子印鑑やデジタル書類は劣化や紛失の心配がなく、データがある限り半永久的に使用できます。実物の印鑑は使用期間が長期になればなるほど劣化していきますし、破損すると買い替えなければなりません。大昔の書類だと、印影が薄れてくることもありえます。

また、入念な管理を行っているつもりでも印鑑や書類を紛失してしまうこともあるでしょう。さらに、もし配送ミスが起きると紛失だけにとどまらず情報流出のおそれもあります。電子印鑑は劣化することがなく、画像データなので基本的に紛失の心配はありません。郵送する場合、送信時に入念に確認を行えば、誤って別の相手に書類が届いてしまうケースも防げます。

電子印鑑の導入によるデメリット

手軽でメリットも多くある電子印鑑ですが、正しく使えていなければデメリットもございます。

印鑑を押印した書類が悪用されるおそれがある

簡易に印鑑をデータ化した印影の場合は、例え社内であったとしても、容易に複製されたデータを流出させたり改ざんしたデータとして悪用される恐れもございます。その為、利用する際には管理面や運用面で予め整備しておく必要はございます。また、実印のデータなどは電子印鑑には使用しないなど、流出・悪用されないよう運用する事が大切です。

電子印鑑を手配するのに手間がかかる

電子印鑑そのものをどのように用意、手配するのか、という点も課題としてあります。無料で自前で作成したり用意する事も可能ですが手間はかかります。有料の電子印鑑作成サービスなどもございますが、後述します利用シーンや役割を考えますとコストをかけてまで導入するかは悩ましいところです。

電子印鑑の4つのセキュリティリスク

印影を画像に取り込んで作った電子印鑑も、有料の電子印鑑も見た目にはそれほど大きな差はありません。しかし、セキュリティリスクには大きな違いがあります。

そのため、電子契約書などの重要データに無料ツールで作った電子印鑑を押すと、悪意のある者が文書を改変したり、印鑑を捏造したりする恐れがあります。電子印鑑のなかでも無料のものに多いセキュリティリスクを解説します。

電子印鑑を捏造される恐れがある

印影の画像データや、Wordの描画ツールなどを使って作成した電子印鑑などは、簡単に捏造できてしまいます。また、無料アプリで作成したものであれば、全く同じ印鑑を作ることも可能です。インク浸透印を除く実物の印鑑の場合、印影に多少差があるため、全く同じものを作るのは困難です。

しかし、データの場合、仮に実印の印影であったとしても簡単にコピーできてしまいます。そうであれば、本人以外の電子文書への押印も可能となります。

誰がいつどのような文書に押したかわからない

通常の印鑑であれば、本人以外が印鑑を持っているとは考えられず、押印したことで契約内容に同意したものと推定できます。そのため、民事訴訟法第228条4項にも書かれているように、契約書を証拠として扱うことが可能となります。

しかし、電子印鑑は、多くの場合、いつ、誰が押したか特定することができません。これを特定できるのは、電子署名やタイムスタンプを付与している電子印鑑の場合に限ります。そのため、印影を画像にしただけの電子印鑑には、証拠能力がありません。

【参考】民事訴訟法|e-Gov法令検索

書類を改ざんされる可能性がある

電子印鑑を導入しても、押印が必要な電子文書自体が容易に変更できるケースもあるでしょう。そうであれば、電子印鑑を押した状態の文書を悪意のあるものに変更することも可能です。

たとえば、Wordで作成した契約書に電子印鑑を押しても、文書の保護を忘れていれば、押印がある状態の契約内容を容易に変更できてしまいます。変更が不可能な電子文書に押印する、もしくは、電子印鑑を押した時点で文書が変更できない仕組みが必要です。

電子印鑑の種類によってセキュリティの強度はさまざま

電子印鑑を作成できるサービスにはさまざまなものがあります。サービスやプランによって、作成可能な電子印鑑の種類は異なります。電子印鑑を利用する際には、利用しようとするサービスがどのような電子印鑑を作成できるのか、セキュリティ対策が施させれているのかを確認しましょう。

電子印鑑におけるセキュリティ対策

電子印鑑を他社との電子取引に活用する場合、なりすまし防止機能や、押印履歴機能などがあるとよいでしょう。なお、電子契約に紙の契約書と同程度の法的効力を持たせたいなら、タイムスタンプと電子署名の双方が必要です。

そのため、契約書に電子印鑑を利用する際は、電子署名とタイムスタンプを付与できるかどうかを確認する必要があります。

タイムスタンプ

タイムスタンプとはハッシュ値と時刻情報の付与により、電子文書の存在と非改ざんを証明できる仕組みです。時刻認証局という信頼できる第三者がスタンプを付与することで、確かにその時刻に文書が存在していたこと、それ以降改ざんされていないことを証明できます。

仮に電子文書が改ざんされていた場合、タイムスタンプのハッシュ値を検証すれば原本データと一致しないため、変更や改ざんを確認できます。

電子証明書

電子証明書とは認証局という信頼できる第三者が、電子的に本人であることを証明する仕組みのことです。従来の印鑑における「印鑑証明書」に当たるものが電子証明書といえます。電子証明書を電子印鑑に添付すれば、本人性や非改ざんの担保につながるため、法的効力が生まれます。

また、電子証明書を利用する場合にも、信頼できる認証局から発行されたものか、有効期限は切れていないか、失効されていないかを確認することが必要です。電子印鑑に電子証明書を添付する際や押印された電子書類を受け取る際は、必ず電子署名やタイムスタンプの有無を確認するといった仕組みが必要です。

電子署名

電子署名とは、電子文書の原本性を担保する仕組みです。具体的にはハッシュ値を用いた暗号化と暗号鍵技術、電子証明書を組み合わせて利用します。これにより、電子文書の作成者が本当に本人であること、内容が改ざんされていないことを証明します。電子署名とタイムスタンプを組み合わせることで、電子契約に必要な完全性の証明が可能となり、法的効力をもった契約が可能となります。

セキュリティ対策を施した電子印鑑の安全な活用

電子印鑑といっても、印影画像やWordやExcelで作ったものの場合、簡単にコピーができてしまいます。最悪の場合、書類を改ざんされる可能性も考えられるため、セキュリティ面では不安が残ります。

そのため、法的効力をもたせたい場合は、タイムスタンプ電子署名電子証明書など、複数のセキュリティ対策を施さなければいけません。これにより、電子書類の改ざん防止や電子印鑑そのものの本人性担保を可能とします。

なお、有料の電子印鑑も全てのプランにセキュリティ対策が施されているわけではありません。基本機能はどこまでか、オプション契約が必要なのかなど確認してから導入するとよいでしょう。