電子帳簿保存法での定期検査は、2022年1月の改正で廃止されました。定期検査は年に1回以上の頻度で必ずおこなわなければならず負担を感じていた企業・個人事業主も多いでしょう。今回の改正で負担が軽減したと感じている方も多いはずです。ほかにも電子帳簿保存法の改正ではさまざまな要件が緩和され、電子データの取り扱いがスムーズにおこなえるようになりました。
一方で、改正法では電子取引データの保存が義務化されたことも大きなポイントです。メールやクラウドなどで受け取ったデータは電子データで保存しなくてはなりません。猶予期間は2年間設けられ、従来どおりの紙媒体での保存が認められるのは2023年12月までです。
この記事では、2022年1月に施行された電子帳簿保存法の改正点や、猶予期間が終わる2023年12月に備えて準備すべきことや注意点などを紹介しています。
定期検査が廃止された電子帳簿保存法改正

2022年1月の電子帳簿保存法改正で、税理士などによる定期検査は廃止されています。従来の電子帳簿保存法では領収書を電子化した後でも、第三者による定期検査が済むまでは原本を保管しなくてはなりませんでした。
電子化する書類が多い場合には、定期検査を頻繁におこなわなければなりません。そのため、電子化のための事務負担は大きかったと言ってよいでしょう。改正により企業や個人事業主の事務負担が大きく軽減し、電子化が進めやすくなりました。
コストの高いシステムでしか対応できなかった点が緩和され、比較的安価なシステムでも対応できるようになった点も大きなポイントです。
税務署長の事前承認の廃止や、電子データの信頼性を確保するためのタイムスタンプ付与期間の延長も、改正により緩和されました。
【参照】令和3年度税制改正|財務省
定期検査の廃止により原本の即日破棄が可能に
電子帳簿保存法改正による定期検査の廃止で、書類の原本の即日破棄が可能となりました。財務省が公開している「令和3年度税制改正」のパンフレットでは、「スキャン後ただちに原本の廃棄が可能」としています。
しかし、タイムスタンプを押さないと正式な電子データとは認められないため、実際には領収を破棄するタイミングを考慮しなければなりません。タイムスタンプの付与までの期間はおおむね7日間、最長約2ヵ月以内です。
紙の領収書を保存する場合は、法人または青色申告の確定申告をしている個人事業主は7年間、白色申告をしている個人事業主は5年間保管しておかなければなりません。データの電子化をおこなえば、領収書の管理や保管の必要がなくなり、事務作業が軽減されるでしょう。
【参照】令和3年度税制改正|財務省
原本の即日破棄を可能とする要件
原本の即日破棄を可能にするには、スキャナ保存の要件を満たさなければなりません。国税庁のホームページでは、スキャナ保存の要件について以下のように公表しています。領収書や請求書、納品書など重要書類に分類される書類の要件はこちらです。
- 入力期間の制限
- 一定水準以上の解像度(200dpi以上による読み取り)
- カラー画像による読み取り
- タイムスタンプの付与(電磁的記録の保存をしたことが確認できる場合はタイムスタンプの付与に代えられる)
- 解像度および階調情報の保存
- 大きさ情報の保存(A4以下の書類は保存不要)
- ヴァージョン管理
- 入力者等情報の確認
- スキャン文書と帳簿の相互関連性の保持
- 見読可能装置の備え付け(14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識など)
- 整然・明瞭出力
- 電子計算機処理システムの開発関係書類などの備え付け
- 検索機能の確保
入力期間の制限とは、書類の作成・受領からおおむね7営業日以内にデータ化しタイムスタンプを押すことです。ただし、書類の作成からスタンプの付与までの業務サイクルを社内規程で定めている場合は除外されます。社内規程を定めることで、最長2ヵ月+7営業日(約70日)以内の保存が可能です。社内規程を定める場合には、国税庁が公表しているサンプルを利用しましょう。
【参考】電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】P7|国税庁
電子帳簿保存法の改正の目的
電子帳簿保存法の改正の大きな目的は、電子化の利用者を増やすためです。電子帳簿保存法は、社会全体のデジタル化への対応や企業や個人事業主の生産性・記帳水準の向上を目指して施行されました。
しかし改正前は、電子化の普及があまり進まなかったのが実情です。内容が複雑なうえ、税務署長への事前申請や定期検査などさまざまな作業が必要である点が大きな理由と考えられます。
定期検査が終わらないと紙媒体を破棄できず、電子データと紙データを二重に管理しなくてはならなかった点も含まれるでしょう。電子帳簿保存法の改正による規制緩和で電子化へのハードルが下がり、電子化の導入を検討する企業も増えたのではないでしょうか。
電子データ保存義務化に対し準備すべきこと
電子帳簿保存法の改正には、規制の緩和だけでなく電子データ保存の義務化も盛り込まれました。メールやオンラインで受領した領収書、見積書などのデータは、電子保存の必要があります。従来どおりの紙での保存は許されません。ここでは、電子データ保存の義務化に伴い、確認・準備すべきことを以下の2点に分けて解説します。
- 電子データ保存義務化の対象者
- 電子データ保存義務化への準備
電子データ保存の義務化に対応するための猶予期間が2年設けられています。2023年の12月までは紙での保存が許されますが、未対応の企業・個人事業主は、すでに義務が発生していることを認識しなくてはなりません。それぞれ詳しく確認し、自社に照らし合わせて考えましょう。
電子データ保存義務の対象者
電子データ保存義務の対象者は、電子取引をしている全ての法人・個人事業主です。確定申告が青色申告でも、白色申告でも関係ありません。
電子取引とは、電子メールやクラウドサービス、ネットを介した取引を意味します。メールで領収書や請求書などの書類を受け取った場合も電子取引です。ネットショッピングの領収書をダウンロードする場合も、プリントせずデータのままで保存する必要があります。
また受け取るだけでなく、書類を送った場合でも電子データの保存は必須です。ただし紙媒体で書類が送られてきた場合には電子取引に該当しません。
電子データ保存義務化への準備
電子データの義務化に対応するために、以下の順序で準備を進めていきましょう。
- 社内の電子取引を把握する
- 電子データをどのように保存するか決定する
- 電子データをどこに保存するか決定する
- 業務フローを見直す
- タイムスタンプを付与できない場合は事務処理規程を作成する
- 従業員や取引先に周知する
準備するにあたり、まずは自社の現状を確認し、データの保存方法を確定しましょう。必要ならば、電子データ保存義務化に対応できるシステムの導入を検討する必要もあります。バックアップ体制を備えておくのも忘れてはいけません。また、書類を紙にプリントせず、電子データで経理に回せるような業務フローを検討しておくと、業務がスムーズにおこなえます。
2023年12月に向けて社内の準備を進めよう
電子帳簿保存法の改正により、定期検査の廃止のほか税務署長への事前申請が不要になり、タイムスタンプの要件も緩和しました。改正により事務作業の負担が軽減し、電子化しやすい環境が整いはじめたといえるでしょう。
しかし、システム導入にはコストがかかるほか、社員教育や業務フローの見直しなどが必要です。電子データ保存義務化に対応するには、データを保存できる環境を整える必要があります。2023年12月に向けて、余裕をもって社内の準備を進めていきましょう。