契約書や領収書など、企業活動において「収入印紙」の貼り付けが必要となる書類は多岐に渡ります。会社の経営者や経理・総務・購買といったバックオフィス担当者は、普段の業務で、印紙税の納付のために収入印紙を利用することが多いのではないでしょうか。
しかし、なぜ収入印紙を張り付けるのか、そもそも収入印紙とは何かを正確に把握できていない方もいるのではないでしょうか。収入印紙の貼り忘れは、印紙税が課される文書で問題になり、これによって過怠金というペナルティが発生します。
この記事では、企業の商取引で用いられる収入印紙について、その基本からどの状況で収入印紙が必要で、どの額面を使用し、どのように使うべきかまで詳しく説明します。この機会に、収入印紙に関する理解を向上させ、印紙税の支払いミスを回避しましょう。
収入印紙とは
収入印紙とは、税金や各種手数料を国へ支払うために使用する証票です。見た目は郵便物に貼る「切手」に似ており、税金の納付書や手数料の支払書に収入印紙を貼って提出することで、税金や手数料の納付が完了します。
収入印紙と混同されやすい証票に「収入証紙」があります。収入印紙と収入証紙の違いは、税金の納付先にあります。収入印紙は国への納付時に使うもので、収入証紙は都道府県や市区町村といった地方公共団体への納付時に使用します。
収入印紙を使う身近な場面として、領収書や契約書といった「課税文書」の作成があります。課税文書を作成すると「印紙税」がかかりますが、印紙税は現金ではなく、課税文書に収入印紙を貼り付ける方法で納付します。
収入印紙の種類

収入印紙は、1円から10万円までの計31種類(券種)が存在します。
収入印紙の額面一覧
- 1円、2円、5円、10円、20円、31円、40円、50円、60円、80円
- 100円、120円、200円、300円、400円、500円、600円
- 1,000円、2,000円、3,000円、4,000円、5,000円、6,000円、8,000円
- 10,000円、20,000円、30,000円、40,000円、50,000円、60,000円
- 100,000円
このうち200円から10万円までの19種類に関しては、2018年(平成30年)7月1日に適用された収入印紙の形式改正によって、特殊発光インキなどを用いた偽造防止技術が施されています。
なお、形式改正前の収入印紙は、現在も引き続き使用することが可能です。
課税文書とは
「課税文書(かぜいぶんしょ)」とは、印紙税が課税される文書のことです。どういった文書が課税文書に該当するかは、印紙税法という法律で定められています。課税文書は全部で20種類あり、代表例は領収書、契約書、約束手形、為替手形などです。
収入印紙が必要な課税文書
印紙税法で収入印紙の貼り付けが義務付けられている課税文書は第1号文書から第20号文書まで20種類存在します。
代表的な課税文書として、以下の文書を挙げることができます。
- 金銭又は有価証券の受取書
- 請負に関する契約書
- 継続的取引の基本となる契約書
- 不動産売買契約書や土地契約書
- 保険証券
- 株券・出資証券
- 約束手形・為替手形
など
なお、文書の種類や記載内容によって、貼り付ける収入印紙の金額が異なります。
また、書面に記載されている内容によっては非課税となる場合があります。
課税文書に該当するかどうかの判断基準として、国税庁は以下のような判断基準を設けています。
(1)印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
【参考】No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断|国税庁)
(2)当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3)印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
上記の3つの要件すべてが当てはまる文書が課税対象となり、それ以外は収入印紙の貼り付けが不要となります。
細かな要件が設けられている文書もあるため、判断に迷った場合には国税庁が公開している「印紙税額の一覧表(その1・その2)」を確認しましょう。
収入印紙が必要なケース
収入印紙が必要となるのは、印紙税の課税文書を作成するケースの他、不動産の取得や交換などがあったときの登記申請に必要な登録免許税を納める場合や、国家試験の受験手数料や運転免許の交付手数料などを納める場合などがあります。
収入印紙が不要となるケース
作成した文書が印紙税法に定める課税文書に該当しない場合は、収入印紙を貼付する必要はありません。たとえば、飲食店で店が領収書を発行する場面を考えてみましょう。領収書は「売上金に係る金銭または有価証券の受取を証明する受取書」の場合に課税文書に該当するため、客が現金払いをした際に発行する領収書は課税文書に該当します(店側は客から金銭を受け取っているため)。
一方、客がクレジットカード払いをした場合は、店側は客から金銭を受け取っていないため、この際に発行する領収書は課税文書に該当しません。したがって、客がクレジットカード払いをした際に発行する領収書に、収入印紙の貼付は不要です。この場合、領収書が課税文書に該当しないことを示すために、領収書内に「クレジットカード払い」の文言を記載する必要があります。
収入印紙の金額
課税文書に貼り付ける収入印紙の金額は、各文書の内容や記載金額などにより異なります。まずは、一番身近な課税文書である領収書について詳しく解説します。
領収書に貼る印紙の金額
受取金額が5万円以上の領収書を作成する場合は、収入印紙を貼る必要があります。5万円未満の領収書は「非課税文書」に該当するため、収入印紙を貼る必要はありません。
「受取金額」は原則として消費税込みの金額で判定しますが、領収書に消費税額が明記されていれば税抜きの金額で判定することが可能です。たとえば、領収書に「商品代金48,000円、消費税4,800円、合計金額52,800円」と記載してある場合の受取金額は48,000円であることから、この領収書は非課税文書となります。
また、同じ領収書であっても、「売上代金の領収書」と借入金や保険金などの「売上代金以外の領収書」では、領収書に貼るべき収入印紙の額がいくらかは異なります。それぞれの印紙税額は下表のとおりです。
売上代金の領収書の場合の一覧表
領収書に記載された金額 | 収入印紙の金額 |
---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円超200万円以下 | 400円 |
200万円超300万円以下 | 600円 |
300万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 2,000円 |
1,000万円超2,000万円以下 | 4,000円 |
2,000万円超3,000万円以下 | 6,000円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 20,000円 |
1億円超2億円以下 | 40,000円 |
2億円超3億円以下 | 60,000円 |
3億円超5億円以下 | 100,000円 |
5億円超10億円以下 | 150,000円 |
10億円超 | 200,000円 |
記載金額のないもの | 200円 |
売上代金以外の領収書の場合の一覧表
領収書に記載された金額 | 収入印紙の金額 |
---|---|
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上 | 200円 |
請負契約書に貼る印紙の金額
「請負契約書」とは、発注者と受注者で交わされる請負に関する契約書です。マイホームを建てるときに施主とハウスメーカーが締結する、工事請負契約書をイメージするとわかりやすいでしょう。
請負契約書には工事請負契約書の他に、物品加工注文請書や広告契約書、俳優やプロ野球選手との契約時に使用する専属契約書などが該当します。印紙税法に定める請負契約書の印紙税額は次のとおりです。なお、租税特別措置法の定めにより、工事請負契約書のうち一定の建設工事請負契約書については、平成9年4月1日から2024年3月31日までの間に作成されるものに限って印紙税の軽減措置が導入されています。建設工事は契約金額も高額になるため、こうした軽減措置の適用を受けることで印紙税額を減らすことができます。
【参考】国税庁「『不動産譲渡契約書』及び『建設工事請負契約書』の印紙税の軽減措置の延長について」
請負契約書の場合の一覧表(通常の場合)
契約書に記載された金額 | 収入印紙の金額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円超200万円以下 | 400円 |
200万円超300万円以下 | 1,000円 |
300万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 10,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 20,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 60,000円 |
1億円超5億円以下 | 100,000円 |
5億円超10億円以下 | 200,000円 |
10億円超50億円以下 | 400,000円 |
50億円超 | 600,000円 |
記載金額のないもの | 200円 |
収入印紙の勘定科目
「勘定科目」とは、取引の内容を会計処理で記録する際に使用する、簿記上の見出しのことです。たとえば、水道代を支払った場合は「水道光熱費」、得意先に掛けで商品を販売した場合は「売掛金」といった勘定科目を使用します。
収入印紙を用いた場合は、一般的に「租税公課」の勘定科目を使用します。他に「租税公課」の勘定科目を使うものとして、固定資産税、事業所税、不動産取得税などが挙げられます。
なお、収入印紙は購入する場所によって消費税の取り扱いが異なります。郵便局などで購入した場合は非課税である一方、金券ショップなどで購入した場合は課税取引となるため、金券ショップで購入した場合は仕訳の借方に仮払消費税を計上します。
収入印紙の購入方法
収入印紙はどこで販売されているのでしょうか。これまで収入印紙を購入する機会がなく、購入場所や購入方法が分からない方もいるはずです。
一般的に、収入印紙はコンビニや郵便局、金券ショップなど、さまざまな場所で購入できます。また、収入印紙は31種類に分類され、1円から10万円までそれぞれ額面が設定されています。主な収入印紙の購入場所を以下にご紹介しますので、確認しておきましょう。
基本的には「収入印紙は郵便局」と覚えておきましょう。その他にコンビニなどでも販売されています。
郵便局
一定規模の郵便局では全ての券種の収入印紙を販売しています。営業時間外窓口のゆうゆう窓口では、夜間・土日の購入も可能です(新型コロナウイルスの関係により一部臨時の営業時間となっていることがあります)。また郵便局に限り、汚れたり破れたりしていない収入印紙なら、1枚当たり5円(10円未満の収入印紙についてはその半額)の手数料で他の額面に交換することもできます。
法務局
法務局の販売所でも全ての券種の収入印紙を販売しています。ただし、場所によっては販売されていないこともあるため、事前に確認しておきましょう。
コンビニ
コンビニでも収入印紙を販売していますが、取り扱いのない店舗もあります。取り扱い状況などの詳細は各店舗に確認してください。
金券ショップ
店舗によっては収入印紙を販売しており、基本的には額面より安く購入することができます。支払いの際に消費税が加算されるため、その分は仕入税額控除を受けることが可能です。券種や販売価格は店舗の在庫により変動するので、事前に確認しておくとよいでしょう。
たばこ店や書店など
収入印紙売りさばき所である一部のたばこ店や酒店、書店などでも、収入印紙を販売しています。店頭に「印紙」の看板が掲げられていることもあるので、確認してみましょう。
収入印紙の貼り方と注意点
収入印紙を貼る位置に法律上の決まりやルールはありませんが、見えやすい位置に貼付するようにしましょう。横長の領収書の場合は、領収書の右下に貼ることが一般的です。
また、収入印紙を貼ったあとは、再利用防止のために印鑑や署名で消印をする必要があります(日常会話では「割印」ということもありますが、正しくは消印です)。消印をするときは、収入印紙と収入印紙を貼った文書にそれぞれ半分ずつかかるように押印や署名を行います。なお、署名で消印をする場合は消せないボールペンで行わなくてはいけません。
収入印紙の貼り忘れや消印忘れがあった場合、ペナルティとして「過怠税」という税金が課せられ、納付すべきだった印紙税の3倍相当の納税義務が発生します(税務調査前に自主的に貼り忘れを申し出た場合は、1.1倍に軽減されます)。この過怠税は、法人の損金または個人事業主の必要経費には算入されません。
なお、未使用の収入印紙や誤って貼り付けてしまった収入印紙は、郵便局で交換、または税務署で還付してもらうことができます(郵便局で交換してもらう場合は手数料が必要です)。郵便局と税務署のどちらに行くべきかについては状況によるため、以下の国税庁のパンフレットを参照の上ご判断ください。
電子契約なら収入印紙が不要
電子契約の導入は、収入印紙の必要性を大幅に削減し、効率的な契約プロセスを実現するための革新的なステップとして注目されています。電子契約は、デジタルプラットフォームや電子署名ソフトウェアを活用して文書を作成、署名、管理する方法を提供し、これにより契約当事者間のコミュニケーションが迅速化し、紙の文書の使用が削減されます。
この新しいアプローチは、いくつかの理由から収入印紙の必要性を軽減させることがあります。まず、多くの国や地域で電子署名が法的に認知されており、電子契約は通常、紙の契約文書と同等の法的効力を持ちます。そのため、電子契約には収入印紙を貼付する必要がない場合があります。
また、電子契約プラットフォームは契約プロセスの整合性と監査を強化するため、文書の変更履歴やアクセスログを詳細に記録できます。このため、契約文書の信頼性が向上し、収入印紙が不要になる可能性が高まります。
さらに、電子契約は紙を使用しないため、環境への負荷を軽減し、資源の節約に貢献します。紙の収入印紙を必要としない電子契約は、持続可能なビジネスプラクティスの一部として位置づけられます。
しかし、注意が必要です。地域によっては電子契約に収入印紙が必要なケースも存在し、要件は異なることがあります。従って、法的コンプライアンスを確保するためには、地域の法律や規制に従い、必要に応じて専門家の助言を受けることが不可欠です。電子契約の導入により、文書の印刷、封入、そして発送にかかる手間を大幅に削減できます。これにより、印刷用紙や封筒、郵送料などの費用が削減され、業務効率が向上します。結果として、収入印紙代の節約と業務プロセスのスムーズ化が実現されます。